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「俺も妹もまだ小さかったから、先生めちゃくちゃ気にかけてくれてさ。ルール的によくなかったのかもしれないけど、時々お家に連れてってくれてご飯とか食べさせてもらってた。」
その言葉で、私はようやく如恵留くんと七五三掛さんの関係が理解できた。
でも、まだ腑に落ちないこともある。あの時どうして如恵留くんは、私を連れて七五三掛さんから逃げようとしたのか。
私がその疑問を口にすると、七五三掛さんはこともなげに言った。
「だって、如恵留は知ってるもん。俺の病気のこと。それに俺、如恵留に嫌われちゃってるし。多分、大事な人には近づけたくなかったんじゃないかな。」
「…如恵留くんは、そんなひどい人じゃないですよ。」
曖昧な笑顔で頷くと、七五三掛さんは目の前の桜の栞に視線を移した。
「実は俺、気づいてたんだよね。この栞、図書館の本に挟んだままだって。わかってて、Aちゃんに本渡した。」
「え…。」
「最低でしょ？せっかく母親が作ってくれたのに。でも俺、これ見るたびに母親の苦しそうな顔とか、父親が病んでた時のこととか思い出してさ。それが、すごく嫌だったんだよね。」
悲しそうに笑った後、七五三掛さんはもう一度私を見た。茶色い瞳が、光っている。
「そんな時に、Aちゃんに会った。あの時さ、本渡しただけですごく嬉しそうに笑ってたんだよね。ぱあって、音が聞こえそうなくらい。『ありがとうございます』って、頬っぺたピンク色にして。あぁ、かわいいなって思ったし、こういう子にこの栞持っててもらえたらいいんじゃないかって思った。」
勝手だよね、と肩をすくめる七五三掛さんに、私は何も言葉を返せなかった。色んな感情が胸に詰まって、息が苦しい。
「でも俺、後からすごく後悔した。高3で母親と同じ病気だって分かったとき、あの栞が急に気になって。なんか、わざと手放したからバチ当たったのかなとか、考えてたような気がする。」
でも違った、と続ける声が、初めて震えて聞こえた。
「これのおかげで、またAちゃんに会えたから。あの時と、変わらないAちゃんに。だから、全然バチなんかじゃ無かったよ。」
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作者名：おさと | 作成日時：2023年3月18日 13時
