華やかな世界 ページ8
ビルの正面入り口とは別にある、人目のつきにくい出入り口
いくつかのセキュリティをくぐり、35階より上層に唯一繋がる専用エレベーターに乗り、38階の自宅に帰る
すでに小夜子さんは帰ったあとらしい
今日の夕飯は自分で適当に支度する、と伝えてあったからだ
万次郎はリビングのソファに一直線に向かいダイブした
A疲れた?
なにか飲む?
万次郎うん、頼むわー
彼の前に冷たい麦茶を置く
ぽんぽんっ、と万次郎に隣に座るように促される
ぽふん、と隣に座ると彼は私の膝に頭を置いて見上げてきた
万次郎A、もうすぐ誕生日だな。
また去年みたいにデカいパーティー開くんだろ?
いいよ。親父さんからの頼まれごと、引き受けるよ。
私の長い黒髪を指に絡ませていじりながら、ニッ、と太陽のような笑顔を向けてくれる
Aいいの?
嫌なら、無理しなくても…
万次郎俺が引き受けるって言ってるんだ
細かいことは気にすんな
ちょっと寝る、とボソッと言ったかと思うと彼はすぐに目を閉じた
これは、しばらくはこのまま動けそうにない
万次郎の目が覚めるまで、私はその場から動くことを諦めた
Aねぇ…
私たちの関係って、なんて言うんだろう…
眠りに落ちた彼にはきっと、聞こえていないだろう
付き合ってるか、と聞かれれば答えはNO
好きとか愛してるとか、そうゆう言葉を交わしたことはない
もちろん、付き合ってください、なんて言ったことも言われた記憶もない
ただ、気が付けばこうしてお互いに隣に、そばにいるのが当たり前のようになっていた
私たちはこのまま大人になるのかな…
いつか、お互いに別々の道を選んで、人生を共に歩むパートナーができるんだろうか…
さっき髪をいじられたお返しに、ピンクがかった金髪に軽く触れると彼はくすぐったそうに軽く身を捩った
万次郎くすぐってー…
A…寝てるかと思った
万次郎寝てたけど、起こされた
Aそれはそれは、申し訳ありませんでした
万次郎は寝転んだまま私の腰に腕をまわし、お腹あたりに顔をくっつけてくる
小さな子供のように
私の存在を確認するかのように
こうゆう時の彼は、何かを悩んだり、抱えている時だ
何かはわからないし、彼が話すまでは私も聞かない
ただ、こうゆう時は彼が落ち着くまでそばにいると決めている
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作者名：神奈月百合 | 作成日時：2022年9月18日 18時
