政略結婚【太宰治】 (ページ38)

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殺めるページ38

手が震える。目の前は真っ赤。物理的には温かいが、冷たく感じる真っ赤な液体。
倒れる、人。

そうか、自分は＿＿＿

殺したんだ。
此の手を汚さないでくれ、と云われてたのに。

Aは涙が出た。殺した、自分は悪い人だ、私は要らない子、と自分を責め続ける。すると、扉が勢いよく開いた。嫌、破壊されたと言った方が正しいのだろうか？

「貴方は……！」
破壊したのは黒い外套を身に纏ってる彼。此の間、太宰に過酷教育を受けていた人だ。
「僕は芥川。太宰さんに命じられ、貴女を助けに参った」
芥川、という男は先程Aが殺めてしまった倒れてる男を見て問う。
「此の男は、もしや貴女が？」
其の表情は驚きが混じっているようだった。
「あ、其の……ごめんなさい。殺すつもりはなくて……其の」
Aが泣きながら云うと、芥川は羅生門を発動しAを持ち上げた。

「……貴女のような弱者が太宰さんに好かれるのが気に入らなかった」
芥川はボソボソと本音を云う。Aは黙って聞いていた。
「訓練でも、上手くいかなかった故に優しくされるのが理解不能だ」
「……うん」
「ただ、貴女は一人一人の命を尊重する優しい人だと僕は理解した。太宰さんから愛される理由も判る」
いつの間にか、建物の入り口まで来た。階段を登ってる途中、羅生門がAの目を塞いでくれた。彼なりの気遣いだろう。
「此の先に太宰さんが待っている。かなり心配しているご様子だ」
「判った、行ってくる。ありがとう」
芥川と別れたAは最後まで暗い顔だった。

ーー
太宰は車に乗って待機していると云う。待機と云っても、司令塔みたいなものだ。Aは車の側まで行くと、気がついたのか太宰は目を見開いてすぐさま扉を開けた。
「治！私……」
此の後の言葉を云おうとしたが、太宰の強い抱擁により云うことができなかった。
「よかった……！心配したのだよ！怪我は！？大丈夫かい？」
太宰は興奮状態だったのを落ち着かせ、Aの容態を診る。

「A……其の手はなんだい……？」
太宰が注目したのはAの手。いきなりのショックな出来事で混乱した所為か、気がつかなかった。Aの手は先程殺された者の血で汚れていた。肌の色も見えないほどに。
「怪我……ではないね。他人の血だ。……A、何があったのか正直に話してくれないかい？」
Aには答えられなかった。察しがついたのか、太宰は先程とは違う、優しい抱擁をした。