姉妹 ページ3
ただ、”大和撫子”の化粧をしているだけなんじゃないかなって、私はそう思う。
織慧が何を思って生きているのか、私は、いや、きっと誰も知らないけど。
私のことを分かっているのは私だけでいいって、私自身も、そういう考えだからさ。例えあの子がそういう考え方をしていても、別に言う事はないし、関わり合いも現状より増えるとは思えない。
「ねえ、織慧。今朝はありがとね」
「別に。でも姉さんも懲りないわね。あれだけいつも言われているのだから、素直に従っておけばいいのよ。そうすれば喜ぶんだから」
織慧は辞書のページをペラペラと捲りながら興味なさげに言った。頬杖をつくその仕草も、織慧はやはり様になっている。
「あいつらに喜ばれて嬉しいわけ?」
「そんな訳無いでしょう。お婆様達の感情に左右される程関心無いもの。良い顔をしておけば無駄に五月蝿くならなくて良いって言ってるのよ」
「ああ……」
今朝との態度の温度差に、自然と曖昧な返事をしてしまう。今更ながら、織慧のこの感じには慣れないなあ。
「織慧はさ、癪じゃないの?」
もし婆さん達にこの会話を聞かれでもしたら色んな意味で怒られてしまう。私達は二人の時、敬語も使わなければお互いに婆さん達に決められた呼び方をしない。何より悪態を吐いてばかりなんだから。
そんな私の考えをよそに、織慧はまた「別に」とそっけなく返事した。
「この家に生まれたのだから仕方のない事よ。これは運命だから。たった一つしかない、揺るがない私達の運命」
「そう……なんだ」
小学五年生の台詞だとは思えない。私の知ってる小学生は、学校の校庭や公園をバタバタ走り回って、無邪気にやかましく笑っているものなんだけど。言うまでもなく、織慧は静かに本を読んだり勉強をして過ごすようなタイプだ。子供達のコミュニティに混ざって鬼ごっこやらかくれんぼやらをしているなんて話、聞いたことがないし想像もつかない。
「姉さんにはやっぱり耐え難いかしら」
「ちょっと、どう言う意味よ」
嫌味っぽい言い方にカチンと来た。が、織慧はそれを見透かした様に「嫌味じゃないわよ」と私を一瞥した。
「姉さんと私は違う人間なんだから、この家に対する考え方が違っても何ら可笑しくないわよ。普段の姉さんの様子を見てごく自然に思ったことを問うただけ。分かるでしょう?」
ぐうの音も出ない。うっ、と言葉に詰まりながらも、肯定の意を示した。
「そうね。私には無理。来年にはこの家を出るわ」
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