- ページ31
『...貴方の事、組織に従順なだけの冷酷な科学者かと思ってたから少し意外だった』
「...失礼ね」
『あら、貴方も私に対して似たような印象を抱いてたから、呼び留めたんじゃないの?』
ぐ、と言葉に詰まる。言い返せない。
『ま、大切な肉親が1人でも側にいるんだから、良かったじゃないの。そういう気持ち、大事にするべきだわ』
「...貴方にはいないの?」
思わず聞いてしまって、はっと口元を押さえた。踏み込むべきじゃ無かった。聞いたところで彼女が話すとは思えないし、知ったところでどうこう出来るものでもない。
『...私は、一人っ子だったからね。両親も幼い頃他界してるし...大事な人が居たら、こんなとこでこんな事してないと思わない?』
「!」
ふ、と自傷めいた視線と、正面からかち合った。やっぱり、聞くべきじゃ無かった。と思っても、一度口に出した言葉は取り消せない。
『...なんてね、忘れて...貴方の聞きたかった事は、もうお終いでいいかしら?』
「え、えぇ」
それじゃあ、これからやる事あるから、と区切りをつけた彼女は、空になった缶を2人分、片手に取ると立ち上がる。
しまった、コーヒーの礼を言うタイミングを逃した、と思ったところで、目の前にコトリ、と小さな長方形の箱が置かれた。
「え、」
『丁度さっき、買い物から帰ってきたところだったのよ。それ、ストックいくつか有るから1つあげるわ』
鞄の中から取り出したらしい白い箱は、有名なハンドクリームブランドのピンクのロゴをキラリと輝かせているもので。
『こんな乾燥した時期にまで、組織の為に熱心に薬品触ってる誰かさんには割とオススメできる品よ』
「...ありがとう、」
今度は素直に出てきた謝礼の言葉。
自身だけでなく彼女も意外に思ったのか、一瞬その目が丸く見開かれたけれど、再びそれが細められると、じゃあね、と歩き出してしまう。
カラン、と空き缶がゴミ箱に落とされた時、思わず立ち上がっていた。
「っ、待って!」
『?』
「...また、一緒にお茶をしてくれる、かしら...?」
らしくない事を言ったと思う。けれど、ふわりと柔らかく微笑んだ彼女が、いいわよ、と返してくれた事に。
胸がじんわりと暖かくなったのは、事実だった。
けれど、それは叶う事がなくて。
暫く時が経った、ある日の午後。
裏切り者のスコッチという男と共に、彼女が諸星大ーーライに始末された事を、耳にした。
534人がお気に入り
「名探偵コナン」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
宮野幸恵(プロフ) - 皮肉れるではなく、捻くれるじゃないんですか? (2022年6月21日 21時) (レス) @page11 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
ユナ(プロフ) - なーこさん» トレンド入りしてたんですね、、!私偶然久しぶりにアニコナ見たら...ってなりました(´・ω・`;)あれはもう制作側の愛しか感じませんね、、一瞬映る志保の線画?とか美しすぎて、、また気になる作品があったらお付き合いください!ありがとうございました! (2019年11月20日 21時) (レス) id: 5a59395d41 (このIDを非表示/違反報告)
ユナ(プロフ) - なーこさん» そうですね(´TωT`)生きてりゃ何でも出来るんで組織壊滅後とかにお茶して欲しいです。。私もこんな風に感想とかリクとか有難いお言葉を頂けて、なーこ様に読んで頂けて良かったなぁと思います!(´TωT`) (2019年11月20日 21時) (レス) id: 5a59395d41 (このIDを非表示/違反報告)
ユナ(プロフ) - なーこさん» なーこ様!返信遅くなっちゃってごめんなさい!!コメありがとうございます!こんなんで大丈夫かなぁ〜と思ってたので良かったです!!志保ちゃんは結構乙女だと思ってます、、 (2019年11月20日 21時) (レス) id: 5a59395d41 (このIDを非表示/違反報告)
なーこ(プロフ) - (私もアニメED見る度哀ちゃんの思いがストレートに胸に刺さって泣きそうに(笑)初めはTwitterのトレンドでEDのネタバレくらって落ち込んでたんですけどそれも蹴り飛ばす勢いの、今までで一二を争うEDだと個人的に思ってます*。) (2019年11月17日 23時) (レス) id: e08e419bfb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ユナ | 作成日時:2019年10月28日 0時