干物がーる【あほの坂田】

干物 41 ページ47

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　「お客さんは音楽をやっている人？」
　「まあ、やっていた、という感じですかね。今では立派な社畜をやってますよ。」
　
　軽く弾かせてもらっていると、その様子を見ていたおじさん店員さんがそう問いかけてきた。

やっていた、なんて、間違ってはいないけれどずるい言い方かもしれないな、と思いながら。まあ事実、やっていた、で間違いないんだけど。

　自分から辞めちゃったんだ、ごめんね嘘ついて。

　心の中で目の前のおじさん店員さんに心の中で謝った。
　
　「そっかー。勿体ないね。すっごい上手なのに、趣味でもいいから続けたらいいのに。」
　「…え？」
　「いや、実は俺もギター弾くけど、お嬢ちゃんみたいに上手じゃないし、何よりお嬢ちゃん、後悔してるように見えるから。」
　「後悔、ですか？」
　「うん。なんかね、やりたかったけど今更な、って感じがする。まあ、ただのおじさんの戯言だから聞かなかったことにして。」
　
　はは、と笑いながらいうその人に、胸の内を全て見透かされている気分になった。
　
　「気が向いたら、またやろうかな。」
　
　精一杯、なんとか口にできたのはこんな在り来りな言葉だったのに、おじさんはじゃあいつか聞かせてね、と優しい言葉を返してくれた。

　それから幾つかのギターを弾いて、お礼を言って家路に着いた。
　

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