干物がーる【あほの坂田】

干物 1 ページ3

　


「たーだーいーま！」
「おかえりー」

　文字列で見るとどうも元気っ子が帰宅した様に思えてしまうが、実際は全くそんなではなく、むしろ逆である。
　疲れからであろう、投げやり感が否めないその挨拶に返事をした俺。

　そう、現在地はというとAの家

「さかちゃん、今日は夕飯はー？」

　のキッチン。
　帰宅して開口一番それはどうだ、なんて思ってたな、などと懐かしいと思えるくらいには、この生活に慣れてしまったらしい。





「私、来月から東京やねん」
　
　そんなことを聞かされたのは半年ほど前の夜のこと。
　ライブのリハを終えてヘトヘトになって帰宅した俺の元にかかってきたAの電話の内容は、“衝撃”そのもので、開いた口が塞がらないとはまさにこの事かー、なんて思った記憶がある。
　
「なんで東京なん？」

「仕事の転勤で、本社に移動になって」

　...なるほど。さすがは ”仕事だけはできるキャリアウーマン“ な訳だ。これだけ優秀な人材を、会社が放っておくはずがないもんなー、と思う反面、

「ようのんだな、その移動」

　一生干物として暮らすべく、実家から通える名の通った企業に就職したはずなのに、一人暮らしなんて大きな糧をよく飲んだものだ、なにか裏があるはずだ！なんて。

「飲まざる負えなかったの」

　電話越しの彼女はとても面倒くさそうで。理由を聞けば、Aの所属していた部署の中で移動が可能な独り身はAしかいなかったらしい。

「仕方ないことやし、まあなんとかなるでしょ」







　

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