口角 グッとあげて ページ13
『CD?』
「はい、瀬良さん結構歌手活動長いじゃないですか。そろそろベストアルバムとかどうかなって思うんですけど」
レーベルのスタッフ、清水さんはにこやかに笑う。助けを求めて林ちゃんの顔を見るも、目が自分の事なんだから自分で決めろって言ってる。…すみませんそのとおりです。
『が、頑張ります』
今録るわけでもないのに、心臓がきゅぅと締まる。
「一緒に頑張りましょう!!」
その明るい笑顔、緊張で顔がこわばる私には眩しすぎる。
「俺清水さんと話してから帰るから。先行ってて」
『うん』
冷たい空気を鼻いっぱいに吸い込んで、そのまま吐き出す。1月の空気は頬や鼻や手を冷やした。
…私にやりきれるだろうか。応えられるものだろうか。
レーベルの入るビルから出る。久々に履いた踵の高いブーツがコツ、と乾いた音をたてて地面に着いたとき、
「あれ?海ちゃん?」
『谷山さん!』
何てタイミング。ちょっと話そうぜ、なんてスマートに近くのカフェに誘導される。
レーズンのチーズケーキと、もう今日は仕事終わりだから、とホットワインを頼む。
「え、CD出すの?久々なんじゃない?」
『自分の名前で出すのは3年ぶりくらいですかね…キャラソンとかは結構ありましたけど』
「もう楽しみだわ」
『いやそんな…』
自信の無さから視線が下に向く。特に意味もなく、チーズケーキの先の尖ったところを切った。
「何緊張してんの、海ちゃんの歌聴く度に上手ぇなって思うよ」
『谷山さんに言ってもらえるとすごい嬉しいです』
「何じゃそりゃ」
『へへ…』
切ったケーキをフォークに刺して、口元まで持っていく。視線を上に向けると谷山さんと目があった。…見られてたのか。
『食べます?』
ケーキが刺さったままのフォークを差し出すと、谷山さんは私の手をそのまま掴んで自分の口まで運んだ。
『ゎ』
小さく声が漏れる。…予想外、谷山さんみたいなスマートな人はこういうことをすっとこなすんだもんな。
「あんがと、これいいね」
指先に熱がこもる。金属製のフォークが少しくもった。
「話戻すけどさ」
『はい』
「海ちゃんが自分の歌うまくないって思ってても、少なくとも俺は海ちゃんの歌好きよ」
『あ、有り難うございます』
「だから、楽しんでやっといで。わかった?」
谷山さんは軽く私の頭を撫でて、口角をグッとあげた。その笑顔にいつも安心させられる。
だから今日も私は、精一杯の笑みを谷山さんに返すのだ。
『…はい!』
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虚無 - ←下野さんの鳩胸にツボった津田さんヲタ (2023年5月5日 9時) (
レス) @page27 id: 4a11fac183 (このIDを非表示/違反報告)
ゆみら(プロフ) - 沙那さん» コメント有難うございます。元々 海は一次創作のキャラクターだったこともあり、このお話は海の主観で書くことが多いです。故に、沙那さんの‘海ちゃんの世界観’というお言葉がとても嬉しいです。有難うございます。これからも瀬良海をよろしくお願いします。 (2019年9月11日 1時) (レス) id: f5d1b07a4d (このIDを非表示/違反報告)
沙那(プロフ) - 初コメ失礼します。毎話の更新を楽しみにしており通知が来る度に海ちゃんの世界観に浸れることを嬉しく思いながら読んでいます。個人的に安元さん鳥海さんが出てくるお話しが好きで読み返すことも結構あります。これからも無理のない程度に頑張って下さい。ファンより。 (2019年9月10日 13時) (レス) id: 5472d240eb (このIDを非表示/違反報告)
ゆみら(プロフ) - 悠さん» ご期待にそえていたようでよかったです(T0T)！！！！こちらこそリクエスト有難うございました！！ (2019年2月17日 5時) (レス) id: 46d3533f79 (このIDを非表示/違反報告)
悠(プロフ) - リクエストありがとうございました！！いいバレンタインになりました！！！！！！ (2019年2月16日 13時) (レス) id: bec5e9e265 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：留鳥カナメ | 作成日時：2018年11月20日 19時
