【声優】瀬良ちゃんが愛されている。のいち。

わん、つー、わん ページ44

『ただいまァ』
おかえり、と返ってくる訳でもないのにただいまを言うようになったのは、小さな同居人のため。

1拍おいて、爪がフローリングを蹴る音がする。
どうやら寝ていたようだった。
グレーのモコモコが走り寄ってきて、私のすねにタックルをかます。

『うぉっふ』

無邪気にピョンピョン跳び跳ねているけれど、そのスピードと重さに撃沈しかける。…子犬でも大型犬だ。

『お待たせ、着替えてくるからもうちょい待っててね』

靴を脱いで、ジーンズはそのままにトップスだけプルオーバーパーカーに着替える。外は寒かったから、裏地がモコモコしたやつ。

靴箱の横にかけてあるリードをとって、

『よっしゃ、行こー』

いつもの散歩コース、マンションの前の坂を上って大通りに出て、仕事から帰るときに通った道を遡る。昼間は晴れていたから、今夜の空気は澄んで冷たい。私は思わず身震いしたけれど、雪国の血を引く相棒はこちらがついていかれないほど元気。
右に左にちょこまか駆け回るので、リードが絡まって困る。季節が過ぎるのはとても早くて、もう既に街の空は暗い。いつもどおり道を曲がって、川沿いを通ろうとした。…けれど、今日は何故だか帰りたくないみたいで。

『まだまっすぐいくの?帰りましょうや』

まだ!と返事をするように一声、ワフン!と鳴いて、まっすぐ進んでいく。普段ならこんなことないのに、何でだろう?…反抗期?

『それは困るなぁ…』

「何が?」

『反抗期なんて…わっ!』

思わず答えてから顔を向ける。

『潤さん!』

よ、って手をあげるのは潤さん。

「今から行こうとしてたんだよ」

『何でですか?』

「いや別に理由ないけど」

『そんな気はしてました…潤さんがいるのわかってたのかな』

満足げに尻尾を振るうちの名犬、そのどや顔に負けてわしゃわしゃと撫でる。

「立花も呼んでいい?」

『じゃあ船長パーティーですね…あれ?立花さん家来たことありましたっけ』

「ねえな…まぁ住所送っときゃ大丈夫だろ」

そうですか、じゃあ何か適当に作りますね、
とか話しながら下る川沿い。
お客さんと一緒の時は大抵エレベーターに乗るけれど、潤さんだから階段でも問題ない。

「いくぞ、よーいドン!」

こうなるから。私の部屋のある6階まで。
でも毎回一番なのは、

『あーやっぱ負けた』

「ぜってえ不利だもん、だって俺ら足2本だぜ?」

若干二歳の家のボス。

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「お邪魔しまーす…あれ、犬飼ってたんだ。名前は?」

『軍曹です』

「軍曹?!」

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