▽ ページ2
...私が本に手を掛けると、突然聞き慣れた声が聞こえて目を見開いてしまった。優しげにニコリと微笑んだかと思えば、ニヤリと口角を上げる彼。アズール・アーシェングロット先輩。
借りを作るお誘いを私がやんわりと断れば、それは残念、と言いつつ革靴でカツカツと音を立て此方に歩いてきた彼は、私の胸の中にある物に視線を向けると、不思議そうに首を傾げた。
「ほう...僕達海の者について、ですか」
『はい。少し知りたいことがあって』
「知りたい?....全く。そのような情報であれば貴女なら無償で提供するというのに。」
『それは嬉しいですが...先輩は忙しいでしょうし。内容的にも少々聞きづらくて、、、』
「....時間に余裕が無いのかと聞かれれば、頷きはしますが。貴女を放っておくのは危険だと、僕が一番分かっているつもりですよ。」
それは、、、
『へぇ、獣扱いですか。先輩は酷いですね。』
「...えｯ、いや、そういう意味では....ｯ!!」
『ふふふ。分かってます、よ』
眼鏡をクイッと上にあげ、表紙の文字を読む。
彼が投げかけてきた質問に答えれば、睨むようにして声のトーンを下げた。...
いつも通り、明らかに不機嫌になったのが分かる。調子に乗ってちょっぴり尖った言葉に反応してみると、態度が一変して焦ったように弁解してくる。それがとても面白くて、クスクスと笑えば、頭を手で支え息を吐く。
こんな何にでも嫉妬する愛らしい彼は、どうやら、私の前では常に完璧で居たいらしい
そんな必死さが彼の好いところだと思う反面。
見栄や過去だとかに囚われず想いをぶつけてくれた方が、此方としては嬉しい。
それを素直に言えないのが、私の一番悪いところなのだが。
伝えれない理不尽な気持ちを覆い隠すように本を開き、ページをめくって目次に目を通す。
軟体動物、軟体動物は────34ページ。
ペラっ、と1枚ずつ丁寧にめくっていると、先輩は本棚とは反対側の壁に寄りかかり口を開く。
「そういえば...Aさんがお一人で居るのは珍しいですね。グリムさんはどうされたのですか?」
『今日の夕方から夜にかけて、スカラビア寮で宴があるとアジーム先輩が仰っていて。私は購買部に用があったので断ったのですが....』
「グリムさんは行ってしまった、と。食いしん坊な彼らしいですね。」
『そうですね〜。結果一人ぼっちです』
「一人に慣れていなさそうな貴女が、そこまでして調べたかった物をお聞きしても?」
....34ページ。此処だ。
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作者名：愛奈 | 作成日時：2021年1月2日 5時
