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自ら磨きあげた業以外を見世物とするのはあまり好みではないが、瀬川も役者だ。舞台に立てば其処に一切の妥協言い訳は通用しないことは身に染みて知っている。此処は舞台だ。俺は役者だ。こうもお膳立てされたとあらば、黙って降りるわけにもいかない。一丁魅せてやろうじゃないか。但し奴等は許さない。
光を受けるその衣の青さを見せびらかすようにゆったりと虚空に手を差し伸べると、何もない空間にまるで水面のような波の紋がいくつも生まれる。
暗闇のなか、
懐から鋭く扇子を抜き、ふわりと音のつくくらいに丁寧にひらく。そうして、瀬川は波紋の間を踊り舞いはじめた。
ゆっくりと、柔らかく、しなやかに、鮮やかに、艶やかに。観客の目に、今のこの一瞬は、自分がこの世で一番美しく華やかなものと見えるように。
奇術？知るか、俺は歌舞伎役者だ。手妻は専門外っての。
やがて舞は佳境に入る。静寂の音韻に合わせて緩やかに衣をはためかせ、瀬川は静に扇子を畳む。そうして、時間を切り取ったかのように静止する。
見る人見る人息を呑んだ刹那、其処からつるりと彼に寄り添い舞うように其れは姿を見せた。紅く白いその鱗の色味は薄青く黒い影と落ちたその場に在って異なり、されど一種の神々しさをも感じさせる。
つう、と撫ぜるように客席に視線を寄越す。彼等の目は一様に驚嘆と、呆然と、そして子どものような好奇心とを映した色をしていた。見慣れた色だ。瀬川は思う。けれど、何回だって、何十回だって見たい色だ。もっと、もっと見せてくれ。
瀬川は再び水魚と舞う。その視線を根こそぎ捕らえるために。
扇子をひとつ、ひらりと反す度、幾つもの溜め息が生れる。
足袋が板をさら、と擦る度、その白さに幾つもの目が吸い寄せられる。
ああ、それだ。それで良い。
もっと俺に惹かれて、もっともっと、俺だけを見て。そして、そうして、最後の最後は、俺に、溺れて。
藍の舞手と紅白の水魚の、息をも忘れる艶舞はまだ続く。
おまけ
黒「...俺と溺れて、の間違いじゃァないかねェ？」
月「？どういうことじゃあ？」
黒「...アイツ、泳げないのさ」
月「うっはははは！そいつは傑作じゃ！一緒に溺れてしまうのお！」
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ラハル - アノさん» ありがとうございます！他の作者様の素敵な文に負けがちですが精一杯やらせていただきますのでよろしくお願いします！！ (2017年3月5日 22時) (
レス) id: a67c8f74a0 (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - アノさん» お褒めに頂き光栄です(*´∀｀) 更新遅れてますが頑張りますね(^o^ゞ (2017年2月24日 20時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
アノ - 凄く楽しく見せてもらっています！凄くこの作品好きなので更新頑張って下さい！応援しています！ (2017年2月24日 20時) (レス) id: 09388b2c82 (このIDを非表示/違反報告)
ラ八ル(プロフ) - 花園イリアさん» ありがとうございます！とても嬉しいです！これからも頑張るので宜しくお願いします！！ (2016年11月25日 22時) (レス) id: dcc66ec7ef (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 花園イリアさん» 有難う御座います！ ご期待に添えるように頑張りますね(*´ω｀*) (2016年11月22日 9時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
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