第1話:サイレンとココロのマリアージュ ページ2
ー喫茶ミシェルにてー
午前11:00
慣れた様子で、テラス席に腰をかけるのはタロウだ。
それに気付いたマスターが店から顔を出す。
「おー、タロウ。コーヒーにするか？」
「あー、あいつ待ってるわ。」
あいつ、とはマーコのことだ。
別に約束しているわけじゃない。
それでも、ふたりの中でこの場所で会うというのは1日のルーティーンのひとつなのだ。
胸ポケットに忍ばせていたタバコに火をつけて、煙を吐き出す。
マーコはいつも、この煙を嫌がった。
煙たそうに、顔をしかめるマーコを思い出して吹き出しそうになったその時、大きな声が響く。
マーコだ。
「あー！！まーた仕事サボってる！！！」
「・・・うるせぇな。恥ずかしいだろ、静かにしろ。第一、サボりじゃねぇよ外回り。」
「外回り中に喫茶店寄っていいんですかー？」
「いいんだよ。つーか、お前だってサボりだろ。」
「違うもん。ちゃんとお昼いただきますって言ってきたもん。」
「11時から昼休憩ねぇ、結構なご身分だな。」
顔を合わせれば、こんな調子で売り言葉に買い言葉。
それでも、そんな関係が心地いいと思っているふたりは側からみれば相性バツグンだ。
マスターに飲み物頼んでくる、と店内に吸い込まれて行くマーコを見届けてタロウはまた煙を吐き出すことに専念した。
「マスター！」
「おう、マーコちゃん。今日は何する？」
えーっとねぇ、とメニューを覗き込んでいるマーコの背後でパリン！！と大きな音が響いた。
驚いたマーコが振り返ると、なんと今時珍しい。
被り物をした２人組が窓を割って侵入して来ているではないか。
そして、そのうちの１人が目の前にいたマーコを手っ取り早いから、と人質に取るため羽交い締めにした。
「ぐへっ！」
と色気のない声を出して、犯人に捕まえられたマーコは助けてと言わんばかりに外のテラス席に、というかタロウに目をやるが、肝心な彼の姿が見当たらない。
「(あんにゃろ・・・！！逃げやがったな！！腰抜け！！クソ野郎！！)」
一方、タロウはタロウで羽交い締めにされたマーコを見て慌てふためき、とりあえず犯人から死角になる位置で110番をしていたのだ。
さて、店内ではいまだ緊張状態が続いている。
犯人は、オモチャかホンモノか分からない拳銃を振り回して叫んでいた。
『金目のものぜんぶ、机に置け！！いいか！！変な真似しやがったらこの女の頭吹っ飛ばすからな！！』
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作者名：サリー | 作成日時：2020年10月14日 17時
