【明治東京恋伽】満月の夜森邸組 (ページ6)

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陸ページ6

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「ただいま帰りました」

私が階段を下りると、そこにいたのは春草さんだった。

「おかえりなさい、春草さん」
「ああ」

今日は早かったんだな、と思いながら言う。

「鴎外さんはまだなの」
「まだですよ、今日は春草さんの方が早いです」
「そう。今日は一段落ついたからちょっと早めに学校を出られたんだ」

春草さんが画材を置きながら言った。見る度に思うけど、すごく重そうだ。
一体何種類の絵の具が入っているのだろうか。

「君は今日何してたの」
「午前中銀座に買い物に行って、午後は部屋の掃除を…あ」

言いかけたところで思う。春草さんの方がここに長く住んでいるわけだし、喜美子さんについて何か聞けるかもしれない。

「…何。どうしたの」不思議そうな顔で聞かれる。
「しゅ、春草さん、喜美子さんについて何か知ってますかっ？」

不思議そうな顔に、さらに疑問符が追加される。
何言ってるのこの子、とでも言いたげだ。気持ちはわかる。

「…喜美子さん、って、鴎外さんの妹さんの喜美子さん？」
「そうです、私が借りてる部屋に元住んでた…」

うーん、と一瞬考えて春草さんは

「俺も詳しくは知らない。俺がお世話になり始める頃には既にこの屋敷にはいなかったよ。
…そういうのは多分、フミさんの方が詳しいんじゃない？鴎外さんに直接聞いてみてもいいと思うし」

と言った。

「そうですか、ありがとうございます」
「…うん」

鴎外さんのことも春草さんのことも、まだ知らないことがたくさんあるんだなと思った。
喜美子さんについてフミさんにも聞いてみよう。