29話 ページ29
お手伝いしてたら食べるのをうっかり忘れていたと、そのまま説明するとルカは驚いたように目を瞬き、視線を落とした。何か言っていたように聞こえたけど、小さい声でよく聞き取れなかった。
『ルカ？』
「ごはん、今から食べる？」
え？ごはんの時間ってもう終わったよね？作り置きももう無いだろうし……
「今から作ってあげる」
『……え、いいの？』
ルカは人差し指を立てると、そっと自身の唇に添えた。
「今夜だけ、特別」
特別……！？
嬉しくて頬が緩むのを堪える。私のために作ってくれるんだよね？そういうことだよね？
「なんか、わくわくしてる？」
『特別とか、誕生日以外で無かったからはしゃいじゃって……』
「……期待するほど、大したものじゃないから」
『大したものじゃなくても、特別って言葉が嬉しいの』
ずっと誰かが特別視されているのを見ていた。ずるいなんて我侭なことは考えない。けど心のどこかで少しだけでいいから自分も何かの特別が欲しかった。
本当にルカは欲しいものを、いっぱいくれる。
『ルカに出会えて、本当によかった……』
「……！っ大袈裟」
そうかな？ルカと会えなかったら、関わらなかったら、ここまで自分から動こうとはしなかった。少しでもルカといたいから、ルカのこと知りたいから。ルカがいるこの場所で、堂々といれる居場所を作ろうと思った。そうじゃなければアリアがいなくなった時点でここから逃げて、満月まで森で暮らしていただろう。
深夜も近い食堂には、できたての料理の香りが漂っていた。私の目の前には、半熟玉子の乗ったホウレンソウのサラダ、柔らかいチキンが入った豆乳リゾット、アスパラガスのポタージュと……遅い時間でも食べやすいものが並んでいて、どれも美味だった。
『んっ……！美味しい！』
「……よかった」
いい具合に素材の味も出ているし、優しい味わいで、以前ルカが言っていた気持ちが入った料理だと感じた。
正面に座るルカは何をするでもなく、じっと私を見つめている。
何か話した方がいいのかな……？
『る、ルカって……いろんな料理作れるんだよね？』
「いろいろ……って言っていいかわからない。けど、少しでも作れるものが増えたらな、と思ってる」
『よかったら、教えてくれないかな？』
「え……？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
