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一目見た瞬間には気付かなかったが、今はよくわかる。
目の前の料理の芳しい香りが、濃い赤色が、早く私を食べてと誘惑してくる。
おそらく、向かいの肉料理にかけられたソースにも、この飲み物と同じものが入っている。
「それでは皆様、手に取りましたか？」
俺たち側の３人の手にはグラスが、向かいの３人の手には肉片が刺さったフォークが。
「では、十二時の鐘の音と共にお召し上がりください。先走ってはいけませんよ」
気がつけば、時刻は二十三時五十九分を指そうとしていた。
俺たちはたっぷり一分間、目の前の料理を見つめる。
まるで待てを指示された犬のように、待ち続ける。
時計の針の音が、やけに大きく聴こえる。
ボーン、ボーン、ボーン……。
広間の空気を震わすほど、大きな鐘の音。
その瞬間、俺たちは一気に目の前の料理を飲み込む。
異変は、それを嚥下した途端に起きた。
「大丈夫ですよ。皆さん、"初め"はそうなるのです」
俺たちは誰一人、まともに座れず床に崩れ落ちていた。
決して、毒を食わされた訳ではない。
いや、ある意味では強烈な毒だろう。
それは、気が狂いそうなほど、美味かった。
とてもとても甘くて、多幸感で満たされて、まるで雷に打たれたかのように、恋焦がれる味。
そう、これは、血だ。
俺たちと同い年ぐらいの、女の子の、血。
初めて口にするが、身体が、本能が知っている。
これは何物にも代え難い甘露、すなわち処女の血だと。
それがまさかこんな、麻薬みたいに強烈なものだとは。
俺は床に転がったグラスを拾い上げると、だらしなく口を開け、必死に逆さまのグラスを振る。
舌に一滴、また一滴したたる度に、全身がよろこびに痺れるのが分かった。
俺がこの有様だということは、他の５人も同じ醜態なのは、言うまでもない。
人前で怒ったこともないほど穏やかな彼が、グラスに必死に舌を突っ込んで血を舐めとっている。
俺としょっちゅう喧嘩する彼は、指で何度もグラスの内側を拭っては、それを口に運ぶを繰り返している。
テーブルの下越しに見た、向かいの３人も酷いものだ。
この中で一番図体の大きい奴は犬みたいに皿を舐め回してるし、澄ました顔がいけすかない奴はソースまみれの白い指をしゃぶってるし、ずば抜けて頭が良いと言われてる奴はどうやらまだ肉片が口の中に残ってるらしく、恍惚の顔でいつまでもそれを咀嚼している。
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橘(プロフ) - れいさん» コメントありがとうございます！励みになります。 (2022年11月6日 5時) (
レス) id: 0b8a193a96 (このIDを非表示/違反報告)
れい(プロフ) - とても面白いです続き楽しみにしてます (2022年11月4日 22時) (レス) @page26 id: 238b034c25 (このIDを非表示/違反報告)
橘(プロフ) - すいみん。さん» コメントありがとうございます！自分なりに意識してる部分なので、そう言って頂けるととても嬉しいです……！なるべく早く更新できるように頑張りますー！ (2021年9月13日 1時) (レス) id: ba43170f7a (このIDを非表示/違反報告)
すいみん。(プロフ) - ｱﾜ…めちゃくちゃ面白いです。詳しく周りの様子や自分の気持ちなどを書かれてるためか、なんかすごい自分がその小説の中にいるのではないか?と思ってしまいます。次の更新待ってます!頑張ってください! (2021年9月12日 23時) (レス) id: 89ac922806 (このIDを非表示/違反報告)
橘(プロフ) - 狛村さん» コメントありがとうございます！励みになります……！！シンプルに面白いと言って頂けるのが本当に嬉しいです。更新頑張りますね！ (2021年9月9日 15時) (レス) id: ba43170f7a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：橘 | 作成日時：2021年9月8日 9時
