不釣愛 [藤原愁] (ページ44)

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第四十一話　心抉る音ページ44

4年前。花梨が交通事故で病院に救急搬送されたと、両親に連絡があった。
両親は各々仕事だったが、母が早退して病院へ向かった。

母「先程、娘が救急搬送されたと連絡をいただきました。高槻と申します」

看護師「こちらです」

案内された部屋は、ICU(集中治療室)では無かった。
無機質なその空間に、顔に布をかけられた状態の花梨が横になっていた。

母「花梨・・・！！！」

医師「・・・全力を尽くしましたが、救急車が着いたころには既に意識不明でした。残念ですが・・・」

母「そんな・・・」

母はその場で泣き崩れる。幸い顔は確認できた。即死だったそうだ。
暫く泣いて、ようやく会話ができるようになった頃、父が到着した。

父「何ということだ・・・こんな、こんなこと・・・！！」

医師「…残念ですが、お腹の子も助かりませんでした」

父「・・・今何と？お腹の子？？」

母「…花梨は妊娠していたのですか？」

医師「えっあ、はい。ご存知なかったのですか？道理でおかしいと思いました。産婦人科のデータにも全くないのですから。お相手に心当たりは？」

両親は、娘の妊娠については勿論、相手の心当たりも全くなかった。
相手の事も、妊娠の事も相談は無かった。隠したい理由があったのだ。つまり、望んでいなかったことであった、と考えるのが妥当だ。

混乱する二人に医師は続ける。

医師「・・・それと、2カ月ほど前から精神科に通っていらっしゃったそうです。担当医には家族には知らせるなと言っていたそうですので、存知ないかもしれませんが…」

父「・・・！！！」

母「嘘でしょ・・・」

余りの衝撃的な事実に、二人はどうすることもできなかった。
泣くことも、悔やむことも、憎むことも・・・そして、謝ることも。

娘の死、望まない妊娠、心の病。どれをとっても受け入れ難い状況が、同時に襲ってきたのだ。

心臓が止まった花梨の横で、両親の心が抉れる音がした。

その後の調査で、花梨は精神科医に全ての真相を聞くことができた。
付き合っている男性からの執拗なスキンシップ。嫌われたくないと思い、我慢して受け入れ続け、自分の居場所を見失い、精神を病んだ。
家族には全くその気配を悟らせず、一人で耐えていた。
結果、睡眠不足で意識が朦朧としていたときに事故に遭った。これが、花梨の死の真相であった。