第三十九話 No Title ページ42
「今日は中学で賞状伝達が行われた。クラスの人は勿論、すれ違う人みんなが『高槻家の血を引いているから才能がある』『世界が違う』と言っている。私だって人並み以上の努力と経験を重ねているのだから、それを”才能”という言葉で片づけないで欲しい」
(＿＿＿＿姉もそう思うことがあったんだ)
完璧な姉だけを見ていた。私も、周りの友人も。
私にとっては、姉の全てが才能に思えた。それはセンスと呼ばれる抽象的なものではなく、日々の努力も含めて全部だ。
でも、それをたった二文字で片づけられることがどれだけ苦しいものか。どれだけ孤独を生むのかを、私は知っている。
同じことを言われたことがある。そして、いつも私の隣にいる愁も同じであった。
できたら「天才」と背を向けられ、できなければ「意外」と皮肉にも安心される。ただ、私の場合、二人よりも劣っているためその経験や重さは違うのだろう。でも、愁が「貴公子」と言われるたびに見せるあの表情を姉もしていて、私には隠していたのかもしれない。
最後の数ページは、高校入学後のことが書かれていた。
そして、そこには気になる文章と名前があった。
「望月先輩に泣いている所を見られた。最初は焦ったけれど、私の話を親身に聞いてくれた。」
「高校に入って早1カ月。友達は誰一人いない。表向きの交流はあっても、皆私を避ける。でも、望月先輩だけは私の話を聞いてくれる。眼を見てくれる。だから、同級生の友人はいらない。」
「今日の放課後、望月先輩から告白され、付き合うことになった。初めてできた恋人。とても嬉しかった。」
「恋愛とはどうすればいいのだろうか…？付き合ったは良いものの、どうするのが正解かわからない。望月先輩は私なりのペースでいいと言ってくれているが、そうはいかない。先輩に嫌われたら、私は学校での居場所を失う。」
「そろそろ愛想を尽かされてしまうだろうか？でも、勇気が出ない。怖い。でも嫌われたくはない。誰にも相談できない。いくら探しても答えが見つからない。」
望月先輩。姉の先輩だから私の知っている望月先輩ではない。
それに、望月先輩の名前が出てから、姉は何かにとりつかれたかのように「嫌われたくない」と書いている。それに、恋人になったことでよりその思いが強くなっている…。
晩年頃、姉は精神を病んでいたことは知っていた。原因はこの人なのか？
次のページにからは、何も書かれていなかった。
『聞いてみるしかないわね』
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作者名：ｉ | 作成日時：2023年3月21日 22時
