第224話 ページ24
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その日の夜。昼に見たフランス代表の試合の興奮冷めやらないままにAは壁打ちに励んでいた。くっきりとボールの型を残した壁が彼女の頑張りとそこに込められた力強さを物語っている。
フランス代表の試合に対する興奮……が大きいのだろうけれど、どうもそれだけではない。Aの脳内にはどうしてもその後のことが残っていた。
自主練をしようとした自分の元に表れたカミュと、更にそこへ駆けつけた徳川。カミュの姿を確認して、怒っているとも取れる態度を示した徳川の眉をひそめた表情が忘れられない。その後すぐに怒ってはいないと分かったし一緒に練習をしたのだけれど、どうしても離れないのだ。
徳川に失望されることも、嫌われることも、Aにとってはどうしようもなく耐え難かった。不機嫌そうな徳川の表情を見て酷く胸が痛んだのだ。
そこには多分、憧れだからとか、普通嫌われるのは誰相手でも嫌だとか、そういう理屈的な感情とは違う何かがあった。
「……んんん、よく分からない。」
ボールを打つ手を止めてポツリと呟いた。考えないようにしようと決めたけれど、どうも難しい。だって無意識に頭の中に入ってくるのだから。
集中できない状況のままする練習に意味はない。ここが潮時なのだろうと、Aは練習を切り上げた。明日はフランス代表との試合。自分が出る出ないは置いておいて、大事な試合の前にあまり夜更かしをするのも好ましくない。
ホテルへ戻る道を歩いていると、前方から2人の人影が見えた。ゆっくり近づいてくる2人に目を凝らせば、その片方も「お、Aやん!」と陽気に声を上げる。
そこにいたのは種ヶ島と遠野の2人だった。
「修さん、と遠野さん。こんばんわ〜。」
「こんな時間まで練習しとったん?偉いなあAは!」
「どっか怪我してねぇのかよ!俺が治してやるぜぇ?」
医療器具を持って悪人面を浮かべる遠野に苦笑いを浮かべて「大丈夫デス……。」と食い下がる。すると種ヶ島が何かをひらめいたように「あ、そや。」と声を上げた。首をかしげて彼を見上げたAに、イタズラっぽく種ヶ島は笑う。
「この先の練習場行って、そこにおる悩める少年に声かけたって。Aからの激励は大分励みになるはずやし☆」
「悩める少年、ですか?」
訝しげなAに「ほな頼むで〜。」と笑ってひらりと手を振り、種ヶ島と遠野は行ってしまった。
「誰、それ……。」
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紗菜 - アニメがまた、スタートするのでこちらも更新されるのをお待ちしています。 (2月15日 19時) (レス) id: c2a2213ca9 (このIDを非表示/違反報告)
ちあき - 続きが楽しみです (2021年9月22日 0時) (レス) id: 09253d858e (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 素晴らしい作品!夢主ちゃん格好可愛いすぎます! (2021年1月3日 15時) (レス) id: 0e780aa7b5 (このIDを非表示/違反報告)
巫和泉(プロフ) - コメント失礼します!読んでいて,とても面白かったです!更新楽しみにしてます! (2020年1月4日 18時) (レス) id: c314aa38cf (このIDを非表示/違反報告)
白雪(プロフ) - 更新待ってます!続きが楽しみです。 (2019年11月7日 8時) (レス) id: 567a821487 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:赤兎リエ輔 | 作者ホームページ:http://nekomoti
作成日時:2019年3月18日 0時