89話、名前のない感情 ページ40
「…それでも、僕は彼を許せません。今更何をしたって、許せるわけがない…！」
「許す必要などないよ。彼が君にした事は、許されざる最悪の蛮行だ。君は確かに地獄にいた」
中島は、膝の上の拳をギュッと握る。
「でも、その地獄が君を正しく育てたんだ」
「…！！」
太宰の言葉に、中島はハッとする。
あれは、泉と出会った時。爆破されそうだった電車の乗客を助けようとした時のこと。そして、自ら飛び降りた泉を庇って海に落ちたこと。彼は苦痛を強いられることを知り、弱い立場に置かれた人間を沢山救った。
「太宰さん、僕の中から溢れてくる…この気持ちは何なんです…？」
中島の問いに、太宰はふっと微笑む。
「私が言えるのは一般論だけだ。
＿＿＿＿＿ 人は、父親が死んだら泣くものだよ」
背を向け歩き出す太宰を見つめる。中島の目から垂れるのは、夕日に輝く涙だった。
▽▲▽
『何故か貴方が言うと、説得力が違いますね』
「普段の行いかなぁ」
『有り得ません』
「即答」
一緒に歩いていた二人だが、太宰が足を止めたことでAも足を止めて振り返る。視線の先の太宰は、何を考えているか分からない笑顔だった。
「ねぇ、私が死んだら泣く？」
『…また貴方は唐突ですね』
二人が立っている空間だけ、音が消えた様だった。何を意図しているかは知らないが、変な事を聞く男だ。
『………』
「ふふ。そんなに考え込むかい。…急だったね。困ったのなら答えなくても良いよ」
訝しげなAを見て、太宰は笑う。歩き出した彼がAの数歩先を行ったとき、Aが言う。
『泣きますよ。きっと。友人が死んだら泣くでしょう』
パッと太宰が振り向く。その顔は珍しくぽかんとしていた気がした。Aは小首を傾げる。
『この答えではご不満ですか？…貴方が言っていた一般論ではないですが、これは自分の考えですよ』
「…いや、まさか真面目に答えるとは思ってなくてね」
スンとした顔で『どうもしません』と言われると思っていたらしい。失礼な男だ。何が可笑しかったかは知らないが、小さく笑い声を漏らす太宰。
隣を歩く太宰から何故か視線を感じる。ふと目を合わせると、ふふ、とまた笑われた。
「君は私を友人と思ってくれているんだね」
『前提として上司ですけどね』
「それでも嬉しいのだよ」
『…左様ですか』
やはり、自分にはあまり理解できない感情だ。
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雪山(プロフ) - ラムネさん» ものすごい勢いのお褒めの言葉、ありがとございます！これからも頑張ります！ (2022年11月22日 21時) (
レス) id: e986202370 (このIDを非表示/違反報告)
ラムネ - もうこの作品大好き！！ああああああ！！もうなんなの！歳上なのに部下とか！好き！！そして男主の性格好み過ぎな？もうこの作品神！そしてこの作品生み出した雪山さんはもう神以上！更新頑張ってくださいいいいい！ (2022年11月22日 19時) (レス) @page27 id: be178889d7 (このIDを非表示/違反報告)
雪山(プロフ) - Yasi123さん» なんて嬉しいお言葉…！これからも励んでいきます。 (2022年9月15日 20時) (レス) id: e986202370 (このIDを非表示/違反報告)
Yasi123(プロフ) - 最近見させていただいています。とても面白いくてめっちゃ好きです。男主くんのキャラがすごい好きです。頑張ってください (2022年9月14日 22時) (レス) id: ea7056b992 (このIDを非表示/違反報告)
雪山(プロフ) - elliscat810さん» 嬉しくて舞い上がってしまいました。コメントありがとうございます。 (2022年8月30日 14時) (レス) id: e986202370 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雪山 | 作成日時：2022年5月20日 17時
