さんじゅいち ページ31
「小娘が...!!!
黙って言わせておけば!!!」
『っ....!!!』
エンデヴァーに対して、
オールマイトを引き合いに出すことは、
それこそ、してはいけないことだった。
ましてやAのような小さなガキから、
ナンバーワンにはどうやってもなれないと
ずけずけと言われてしまった今。
プライドのかたまりのようなエンデヴァーの心は、
簡単にいらだってしまった。
エンデヴァーから発された野太い怒号に、
Aはすくみ上る。
怖い。
今にも襲い掛かってきそうな、
ぐるぐると唸る野性的な瞳は、
Aを捉えて離さない。
Aが震えて、怖くて、
ぺたりと床に座り込んでしまった時。
「Aちゃんに、触るな。」
かばうように、焦凍が一歩、
前へ進み出た。
ごうっと左腕から炎が噴き出して。
父に勝てないなんて、焦凍は痛いほどわかっていたが、
Aを守るために、ただ、そのために。
焦凍はぎりっとエンデヴァーを睨みつけた。
焦凍のその行動に、エンデヴァーはほうっと
息を漏らす。
「その娘のために、その力を使うか。」
「うるさい...!!!!」
「いいだろう....。
だとしたら、こちらも全力を出さねば失礼になるな。」
焦凍のちろちろした炎をあざ笑うように。
エンデヴァー右腕からは、炎の渦が巻き起こる。
「さぁ、どうする?焦凍。」
エンデヴァーは、怒ってはいなかった。
ただ、楽しそうに口をゆがめていて。
試すために、わざと試練を与えているようだった。
『...。』
こんなの、勝てるはずがない。
Aも、焦凍も、薄々気が付いていた。
チリチリと何かが焼けるような匂い。
余裕綽々といった表情のエンデヴァーとは異なって、
焦凍の顔に、冷汗が伝う。
ダメだ。戦っちゃだめだ。
勝てない。焦凍は負ける。
Aは、声に出そうと口を動かしたが、
喉が乾いていて、何一つ音にならなかった。
「Aちゃん、逃げて。」
そんな中、焦凍の声が
小さくAの耳に届いた。
驚いて、焦凍を見上げる。
その瞳は、炎にあおられてゆらゆら揺れていた。
「走って、逃げて、振り返らないで。」
焦凍が、何をしようとしているのか。
そしてその結末を。
Aは、痛いほどに理解してしまった。
焦凍は、戦う気だ。
Aを逃がす、ただそれだけのために。
Aの脳裏に映るは、焦凍の涙。
ダメ。これ以上、これ以上。
焦凍を、
「わぁぁぁぁっ!!!」
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作者名：雪兎 | 作成日時：2017年7月1日 20時
