･ ページ37
なんで、なんで、なんで、どうして。
視界に映り込んでしまった。
遠くに立っている、傘を持った男女二人がこちらを見てうっそりと微笑んでいた。
それを見た途端、全身から力が抜けた。
｢……なん、で、｣
空気に溶けて消えてしまうような、か細い声が情けなく零れた。
思考も、身体も、呼吸すらも、その機能を忘れてしまったかのようで、自身の存在を自覚することすら曖昧で、時に置き去りにされたような感覚を覚えた。
雨の温度で練習で温まったはずの身体の熱がどんどん奪われていく。
どうして、どうしてあの人たちが。
雨の音が嫌に耳に残る中、不意に冷え切った手のひらを少し強めに握られた。
｢御剣。｣
｢……かぜ、まる。｣
｢ボール回収してとっとと戻ろう。｣
ああ、まただ。私はいつもこうだ。いつも、風丸にこうして世話を焼かせてしまっている。
いつも私の異変に最初に気づくのは風丸で、真っ先にそばに来てくれるのも風丸で。
……どうしてお前はいつも、そんなに暖かいんだろう。
春の暖かで混じり気のない風のように、あっという間に凍えてしまいそうな私を包んでしまう。
今だって、冷え切って凍りついてしまいそうになった私の時間を容易く動かした。苦しくてたまらなかった呼吸がいつの間にか元に戻っている。
遠くに見えていたはずの伯父と伯母の姿は、気づいた時にはもう無くて、あれはひょっとすると、ただの白昼夢だったんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。……しかし、私はそう楽観視できるほど単純な思考なんてしていなかった。
あれは現実だ、と正しく認識してしまっていた。同時に悟ってしまった。
――もう、逃げられない。
風丸に手を引かれながら土砂降りの中を足取り重く駆け足で進んでいく。
雨が降っててよかった。鉛色の下ならばこの酷い顔も、少しは誤魔化されるだろう。
……"ろくな人生じゃなかった"と過去の私なら嗤うだろう。しかし今の私なら"誰よりも幸せな時間を生きた"と、きっとそう言える。
それくらい、彼らとの時間は得難いものだった。この記憶があるなら、私はどんな地獄に落ちても悔いはない。
そんなことを考え始めているあまりにも弱気な自分が少しおかしくて、誰にも気づかれないようにひっそりと笑みを浮かべた。
……ああ、でも、強いて言うなら、
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 156人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
moeka(プロフ) - 続きの更新がなくて寂しいです。更新してくれたら嬉しく思います。楽しみに待ってます。 (2022年2月19日 19時) (
レス) @page50 id: e9f0e4b4b1 (このIDを非表示/違反報告)
紅乱 - 御剣さん誕生日おめでとうございます！こんなにログイン出来ないの悔しいって思ったの初めてかもしれない…これからもずっとゆきさんと御剣さんを応援しています！！ (2019年6月14日 16時) (レス) id: 649e22ca45 (このIDを非表示/違反報告)
Rin?^^*(プロフ) - 御剣さん本当に好きです！この先の展開も予想がつかずいつも楽しみにしています！更新待ってます、頑張って下さい！ (2019年6月9日 21時) (レス) id: ed59144b66 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ろーださん» へァ?!!!!!!!本当ですか……?!!!うちの子が人様のご縁になるとは……!!こちらこそうちの子を出会いのきっかけにして頂いて、ありがとうございます!! (2019年4月19日 17時) (レス) id: 05b431dc35 (このIDを非表示/違反報告)
ろーだ(プロフ) - 聞いてください、ゆきさん！御剣さんの話題で友達ができました！これも、御剣さんの生みの親であるゆきさんのお陰です！！これからも、更新頑張ってください！！！ (2019年4月19日 15時) (レス) id: b040f787bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆき | 作成日時：2019年2月13日 20時
