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最初のうちは「なあ」とか「どうして泣いてるの」とか「大丈夫」とかいろいろ言葉を投げかけられたが、そのうち静かになって、ただ足音が、気配が、後ろに居るだけ。
夜が染みるようにじわじわと辺りを暗く染めていく。
そろそろちゃんと言わなきゃ。
後ろの、彼に。
「…ごめん」
へっ、と抜ける声が聞こえた。
ゆっくり、振り返る。
そして向き合う。
「今日は、ごめんなさい。迷惑かけちゃった」
「迷惑って、ていうか、どうして泣いて……俺がいない間、なんかあったのか…?」
「うん。あったよ。たくさん」
「え…」
「みんな潔くん潔くんって。でも私は応援してたし、私の事ちゃんと覚えてくれてるはずって信じて、でも皆、ただの高校生だった世一くんを忘れて潔くんがって騒いで、狂って、どんどん潔くんを遠くに連れて行って、私寂しくて……」
世一くんの夢は私だけが知っていたもののはずだった。ただの男子高校生だった世一くんは私がよく知っているもののはずだった。これは独占欲と言うやつかもしれないと気づいていた。
だから、今日の誘いが来て、ああ私まだ想われてたんだってどうしようもなく嬉しくて。
「でもね、私、「潔くん」に私は必要ないと思うんだ」
「……は?」
低い声が返ってきた。
「……どういうことだよ」
「私、潔くんのことが好きじゃない」
彼が激しく動揺したのが暗闇でもよく伝わった。
「ああでもね、嫌いになったわけじゃないの。今までの世一くんのことは、変わらずずっと好きだよ。けど、みんなの憧れ、みーんなの注目の的潔選手に、私は必要ない」
「そんな、っ、勝手に決めんなよ!」
彼は叫んだ。
彼女の笑みに、ぞくりとした。
「これは私のエゴだよ」
鉛のように鈍く宿る目の光に、唾を飲む。
「「潔くん」なら分かるでしょ?」
「……!」
「ねえ、「潔くん」は私のこと、好き?」
「…ああ好きだよ。大好きだ」
静かに答える。
「俺は、自分の夢を叶えたいと同時に、お前にかっこいいとこ見せたくてサッカー頑張ってたんだ」
興味無さそうに、そう、と短い声が返ってくる。
「俺、絶対お前のこと好きにさせてやるから」
「やってみなよエゴイスト」
ハッ、と笑いが出た。
「
「君は世界一のエゴイスト」fin
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夜 - いつも素敵なお話ありがとうございます!リクエストなんですが、糸師冴さんで男主くんの話を書いて欲しいです。暗い話で冴さんがヤンデレな感じで。注文が多いですがよろしくお願いします! (8月6日 20時) (レス) id: 539b005b10 (このIDを非表示/違反報告)
りりあ(プロフ) - 加糖雪さん» 素敵なお話ありがとうございます!! (8月2日 12時) (レス) @page37 id: e7fc63ae3c (このIDを非表示/違反報告)
加糖雪(プロフ) - りりあさん» りりあ様こんにちは。リクエストいただいていた内容の作品を追加させていただきました!リクエストありがとうございました〜! (8月2日 8時) (レス) id: 7edce3b0d6 (このIDを非表示/違反報告)
加糖雪(プロフ) - 汰稀さん» なんと!素敵な夢をみていらっしゃる…!リクエストありがとうございます。お待たせしてしまうかもしれませんが承りましたのでしばらくお待ちください…! (7月30日 2時) (レス) id: 7edce3b0d6 (このIDを非表示/違反報告)
加糖雪(プロフ) - 汰稀さん» 返信遅くなってすみません!そうですね、束縛、独占欲の表現として三つ編みを用いていました(*˘︶˘*)ただ蘭世本人は無自覚かな?と思ったり思わなかったり…色々考えながら読んでいただけると嬉しいです^^ (7月30日 2時) (レス) id: 7edce3b0d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星藍 海 | 作成日時:2023年7月19日 3時