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「なんでもないよ」と笑う三郎さんからはさっきの剣幕など微塵も感じない。
「そろそろ夕食の時間だろう。食堂に行こうか」
三郎さんのその言葉を聞いた3人__乱太郎くんきり丸くんしんベヱくんの切り替えは早かった。
「それもそうですね」
「今日のメニューはなんだろう」
「僕もうお腹ぺこぺこ!」
不安そうな表情はどこへやら。
にこにこしている3人を見て、私はほっとした。
私にも今のが何なのかよく分かっていないけど、小さい子に心配はさせたくない。
「Aさんまたね!」と1年生3人に笑顔で手を振られ、私も「またね」と笑う。
そしてそんな3人と三郎さんは歩き出してしまう。
(私に挨拶もなければ謝りもしない、か…)
鉢屋三郎、という名前のその人への謎は深まるばかりだった。
その一方で、雷蔵さんの方は戸惑った顔のまま動かない。
「あ、あの、三郎がすみません…」
「…大丈夫ですよ。あなた…雷蔵さんは何も悪くないですし。気にしないでください」
私は雷蔵さんに笑って見せた。
何も雷蔵さんが謝ることはないだろう。
雷蔵さんは私の顔を見ると一瞬目を見開いて、
「これ、ありがとうございました」
そう言うと「忍たまの友」を少し握り直した後、こちらに一礼して4人の背中を追うように駆け足でその場を後にした。
足音は遠ざかり、やがてその姿は見えなくなる。
「…はあ」
(…またため息をついてしまった)
外は陽が落ちている途中のようで、空は橙色に染め上げられている。
そろそろ夕食の時間、なら私のところにも夕食を持って山本さんが部屋にやってくる頃だろう。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月25日 20時