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昨日懐に仕舞ってそのまま忘れていた。
(…私が昨日雑渡さんに連れ去られてるっていうのは周りに言わない方が良い…んだっけ…)
「忍術学園の人には内緒にしててね」とか
「手裏剣やら焙烙火矢が飛んでくる」とか
「Aちゃんが居なくなったのがバレなかったから良かったけど」とか、
バレたらあまりよくない状況になるようなセリフの断片が頭に思い出される。
「…なんでもないですよ」
一瞬だけ考えて黙っていることにすると、私はその紙を懐にきちんと仕舞い直す。
仕舞い直して、包帯で覆われた手を自分の懐から離そうとすると、低い声がした。
「本当に?」
その人にその手を掴まれる。
私は顔を上げて雷蔵さんと同じ顔のその人の顔を見た。
その顔は、笑っていない。
私に対して向けられているのは、怪しむような目。
ぎゅ、と包帯越しに力が込められるのを感じた。
私はよく分からないまま、その人と目を合わせ続ける。
(向こうは雑渡さんがここに来たことに気がついてるのだろうか…
…だとしたら雑渡さん、本当に何かやらかしてたり…?)
その人は私の手を掴んだままそれ以上何も言わなくて、その場はしんと静まり返る。
そうなって、周りからは睨み合いでもしているように見えているのではと気がつく。
「さ、三郎…?」
その様子を見ていた雷蔵さんが、こわごわと同じ顔に言葉をかけた。
「鉢屋三郎先輩…?」
怖がるような乱太郎くんの声もした。
1年生の3人も驚いた顔をしながら私とその人_鉢屋三郎さんを交互に見る。
「…ああいや、ちょっとね。気になってしまって」
三郎さんはすっと先程までの裏のない笑顔に戻ると、私の手を離して心配した顔の皆に向き直る。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月25日 20時