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私は驚き半分、悩んだ。
文が届けられなかったことを内密に、そして事情を探られないというのは好都合である。
しかしそれと引き換えに忍術学園に居ることを約束するのは難しい。
どうしたらいいかわからない。
それでも考えろ。
私は息を飲んだ。
「…わかりました」
「よし、決まりじゃの」
「ヘム!」
私の言葉に、真剣な表情と打って変わって学園長さんとヘムヘムは笑顔になった。
(…ごめんなさい、もしかしたら私は…この約束を守れないかもしれない)
身体が治るまでここに居れば良いだけの話なのだが、私は急いでいるのだ。
ずっと怖い。常に怖い。簡単に引き返せないと分かっていながら引き返したいと思ってしまったらどうしよう、と。
「話しはそれだけじゃ。突然押しかけてすまんのう」
「…いいえ、わざわざ足を運んでいただいてありがとうございます」
私は学園長さんに向かって微笑んだ。
「そうじゃ。ちゃんと動けるようになったら、庵に遊びに来ると良い。美味しい茶とお菓子を用意するぞ」
「ヘムヘム!」
そしてそんな私を欠片も疑わず、さらに不審にも思っていないのか楽しそうに学園長さんは私をお茶に誘う。
むしろ私へ好意的に接している。
そのまま学園長さんとヘムヘムは立ち上がって、「お大事にな!おばちゃんのご飯はこれからも残すんじゃないぞ!」「ヘムヘム!」と言い残して部屋を出ていった。
閉められた障子を呆然と見つめて、一人改めて決意する。
(やっぱり、早く身体を治さなきゃ…
治ったと見せなきゃここを出れない。
それがダメなら、
…迷惑も心配もかけるから出来ればしたくないけど、最終手段だけど…
…無理矢理逃げるしかない…!)
*
Aの部屋から庵へと戻った学園長は、座布団の上でヘムヘムのたてた茶を啜っていた。
「…ふう。彼女には悪い事をしたのう」
2人と1匹だけの秘密、と騙って取りつけた約束。
その約束がたとえ狡い手段だったとしても、彼女をここへ留める何かのうちの1つになれば良いと願うばかりだ。
「それにしてもやはり。彼女の笑顔は下手くそじゃのうヘムヘム」
「ヘム!」
1人と1匹はくっくっく、とほのぼの笑っていた。
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作者名:加糖 雪 | 作成日時:2021年4月25日 20時