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「体調が優れませんか？」
「ああ、いえ、少し立ちくらみがしただけです」
「…そうですか」
向こうにも何か事情があるのだろうと利吉はそれ以上は何も言わないことにした。
少女は顔を上げて、利吉と向き合う。
「はい。助けてくださりありがとうございました」
「…」
利吉は顔には出さないがまた少し驚いた。
彼女はこちらに笑いかけたつもりなのだろうが、その笑顔はひどくぎこちなくて、不器用そのものだった。
眉をひそめるようにして、どこか悲しそうで。
少女は利吉へ礼をすると、さっとその場から離れ、すぐ近くの部屋へと駆け込んで行ってしまう。
これは何かあるな、と思いつつ利吉はその少女の背中を見送った。
*
｢利吉？｣
｢父上｣
授業から戻った山田先生が自室の障子を開けると、その真ん中には利吉が座っていた。
｢山田先生、部屋に入らないんですか…って、あれっ利吉くんじゃないか｣
山田先生の後に続いてやってきた土井先生も、利吉の方を見て驚く。
利吉は「こんにちは、土井先生」と会釈すると咳払いをひとつしたのち、
｢父上、今日はお話が｣
｢…ああ、すまないがこの後もすぐ授業があるから手短に頼むぞ｣
山田先生は次の授業で使うものを取るため、座り込む利吉に構わず部屋に入り込む。
｢ええ。父上が今すぐ休みを取って家に帰ると約束してくれるのなら、話はすぐに終わりますよ。私の話はそれだけなので｣
｢……いや、それは…そうしたいんだが、実は は組の追試があって…｣
山田先生はきまり悪そうに答える。
｢父上…｣
そんな父をじとり、と利吉は見つめた。
山田先生は困りながらもわざとらしい笑みを作って、部屋の隅から沢山の服を包んであるのであろう風呂敷を引っ張り出してくる。
｢そ、そういえばちょうどお前に洗濯物を家に届けるのを頼みたいと…｣
｢お断りです！｣
利吉はいっそうキツい目で、父にきっぱりと言い切る。
｢まったく、話を逸らしたどころか洗濯物を頼もうとするなんて…｣
言いながら腕組みをして、大きくため息をつく。
｢まあまあ…｣
そんな親子2人を土井先生がたしなめたところに、｢利吉さ〜ん｣と聞き馴染みのある間延びした声が聞こえてきた。
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作者名：加糖 雪 | 作成日時：2021年4月6日 16時
