きっと息をやめるまで【RKRN】 (ページ1)

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熱い。

周りがどこを見回しても燃えている。
ものを、家を、人を、オレンジ色が時折赤く揺れる炎が燃やしている。

それは決して綺麗なものなんかじゃなくて、炎はおさまる気配なんて全くないまま黒い煙を辺りに立ち込めらせてゆく。

私の周りを漂う分厚くて気味の悪い黒。その隙間に見える赤。

その赤の中に見える…すすけた…人の手。

｢ッ！｣

私は自分の足元から目を逸らした。
見ちゃいけない、見ちゃいけない。
そう自分に言い聞かせて逃げる足を早めた。

古びてくたくたなのに加えて、この煙のせいですすだらけになった着物の袖で口元を抑えながらがむしゃらに走る。

私の住んでいた村はこの夜、とある城と城の戦に巻き込まれて丸ごと燃やされたのだ。

こんな夜中に村を奇襲してくるなんて誰も思っていなかったから、村中が混乱に呑まれ村民は逃げ惑った。

私は母と父と3人で手を繋いで家を飛び出した。

村は赤ちゃんや子供の泣き声と大人の叫び声が飛び交っていて、私は走りながらここがいちばん地獄に近い場所なのだと思った。

けどそれも初めだけで、そのうち人の声は聞こえなくなっていった。
銃に撃たれたり、飛んできた矢に刺さったりしてみんなばたばたと倒れたからだ。

村を燃やす炎の煙で前が見えなくなって、私は家族とはぐれたことに気がついた。

自分が今どこにいるのか、村はどうなってしまったのか、煙でよく分からなかった。

考えるのを自然と諦めていた。

これから自分はどうなるのか考えることも感情に任せて泣き出すことも出来なくて、そのうちくらくら目眩がし始める。

喉が苦しくて咳き込むと、ゲホッ、と身体が苦しそうに音をあげた。

ああきっと、煙を吸いすぎたんだ…

頭がガンガン痛い。
よく体の神経に集中してみると、全身が痛かった。

視界が霞む。

どうして私は逃げていたんだっけ、と思い当たると、逃げる足は止まってしまった。

こんなことになってしまったら、生きていたって仕方がないのは想像に容易い。

本能とは恐ろしいものだ。
この後今まで通り生きていけるはずなんてないのに、今この一瞬を生き延びる為だけに私は走っていたのだ。

それって、意味がない。

私は地べたに膝をついた。

熱風が頬をかすめる。
煙が目にしみて、だんだん瞼が重たくなっていく。

このまま眠ったら、次に目を覚ますことはないような気がした。