愛から眺めて、向こう側を置いていく【RKRN】

37 「それなら、いいんですけど…」 ページ41

そういえば、制服なんかも大丈夫なのだろうか。



(の、後の服飾の変遷に影響があったりとか…)


「そんなに怖がらなくても、天女様が去ればその天女様に関する私たちの記憶は朧気になります。
現にこれまでの天女様もなんだか…四角い…薄くてかたい…そういういうものを持っていたような気がしますけど、今じゃもう良く思い出せないですし」

(土井さんが言っているのはスマホのことか…？)

山田さんも頷いているし、何にせよ、本当によく覚えていない様である。


バタフライエフェクトのような現象はここでは起きない。
むしろその逆、多少のことは何らかの力によって揉み消されて、きちんとした時間軸に収束されてしまうようだ。



「それなら、いいんですけど…」



なんとなく、この人たちが未来のことを知ったところで悪い様にするようには思わない。

俺は単語帳について説明した。
流石に英単語や公式がびっしりになっている中身は見せなかったけれど。

勉強に使うもので、暗記をするのに役に立つ。
俺は普段からこれを使って勉強しているのだと伝えると、二人は納得してくれた。





山田さんが改まって、

「このお部屋は机や布団なども含めてどうぞご自由にお使いください」

「えっ。あ、ありがとうございます」



もっと砕けた話し方をしてもいいのに、と思いながら
会釈で頭を軽く下げる。

(やっぱりまだ畏まった口調は抜けきらないかあ…)





これまでの天女のことを考えれば、たとえ天女の俺がお願いしたとしても突然敬語を外せと言うのは難しいのだろう。
何かしらの力を持った崇高な、神に近い存在。






「私と土井先生がAさんの身の回りのことを預かっているので、何かあればいつでも私たちにお声がけを」

「了解です」






でも一応、言ってみるか、と口を開いた。




「早速なんですけど、おふたりとも敬語が戻りつつあるのでもっとフレンドリー…気さくに話してもらえたらな〜なんて…｣





｢…おっと｣
思わず、と言った様子で山田さんは自分の口を抑えた。
その隣で土井さんは困ったように笑い、
｢はは…すまない｣

軽く咳払いすると、山田さんは軽く頭を下げた。
｢失礼した、善処する｣

どうやら2人とも自然と敬語に戻ってしまっていたようだった。

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