ひまご ページ33
「おらが乗る電車だべ」
子どもサイズの指の先にはお待ちかねの電車が来た。時刻表よりかなり早めに来たものだ。
「おらはあれで帰んだ」
「奇遇ね。私もあれで帰るの」
よいしょ、と立ち上がり、爪先を白線に近付けようとした。すると、子どもは邪魔をする。
子どもは眉間にしわを寄せて、鬼の様な顔をしていた。
「いんや、おめぇは乗っちゃ駄目だ」
「なんでよ」
「駄目ったら絶対駄目だぁ!」
「だからなんでって聞いてんの」
「おめぇにはまだ早すぎる」
「まあ、時間的にはちょっと早いけど」
「とにかく駄目だ!」
「......分かったわよ。意地悪ねぇ」
そう言うと満足したのが満面の笑みを浮かべた。
「おらはもう来れねぇからこれやるべ」
「.....別にいらない」
「いいから、もらっときんしゃい」
「えー.....
えっ」
何気なくお守りの裏をみるとこの子どもの名前が刺繍してある。その刺繍は先程見送った祖母の名前が縫い付けられていた。
「世が変わっても苦しいもんは苦しい。だからおめぇも頑張りんしゃい
それから」
その先を聴く前にドアはしまってしまった。ドアの向こうがずれはじめ遠ざかっていこうした。
「ねぇ!」
自然と持った荷物を手放し、電車に走る。
「私じゃなくても良かったじゃ!介護してくれた母さんとかさ.....一回も顔見せに来なかった私じゃなくてもさ!!!」
窓の向こう、走る私を見て笑った。
安堵したように愛しそうに優しく、微笑むのだ。
「なんで!?.....ねぇ、おばあちゃん!」
どんどん遠ざかっていくのに何をそんなに安心しているのだろうか。
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ