【オリジナル】ただ在る事を求められる生き字引 (ページ7)

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アリスと魔法ページ7

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ホムンクルスのアリスは、最近ではすっかりお気に入りの本たる"不思議の国のアリス"を読み終えて手持ち無沙汰になってしまったらしい。執拗に生き字引の後ろをつき回っては何をすればいいのか、何をしなければいけないのかを尋ねている。
読書に集中したい生き字引は、自分が座る椅子の元に侍って一分置きに「アリスは何をすればいいの？」と聞いてくるアリスにキレていた。

《What should Alice do?》
「何もしないでいい」
《Are you don't need some food?》
「いらない。掃除も洗濯も、魔法で全部……ああ」

何回目だか分からない同じ会話の後、ふと生き字引が言葉を止める。首をかしげたアリスは、すぐにいきなり生き字引が魔法で運んだ大量の本にびっくりして飛び上がった。
アリスは勉強が嫌いである。知識を増やすことは何より好きでやりたがるのだが、己が望まない知識を増やすのは嫌いでやりたがらない。

プルプルと震えるアリスに、生き字引はとても良い顔で笑った。

「アリス、魔法を勉強しようか」

アリスは焦ってスケッチブックに文字を書いた。

《Alice am not want to that's.》
「お前の意向なんて初めから聞いていない」
《Alice want to help of you!》
「魔法でお前がいろいろ熟してくれたらぼくはとても助かるだろうね。さあスケッチブックは置くといい、ノートブックがあるからそこに文字を書こうか」
「＿＿＿……っ！」

思わず叫ぼうとしたのか音の出ない口をぱくぱく開閉させて、意味が無いことに気づいても文句を言おうとするアリス。だが笑うだけで気にも留めない生き字引。

生き字引は考えた。自分も納得しアリスも納得させる"お手伝い"を。だがしかし、アリスをちょっと困らせる"お手伝い"を。朝昼晩雨の日も風の日も晴天の日も、一年程前に名前と共に贈った本を読み終えてからと言うものの毎日毎日しつこく「What should Alice do?」と聞いてくるアリスを困らせる何かを。

まず文法がおかしいよアリス。名前が気に入ったからって無理矢理 I を Alice に置き換えるんじゃない。いや待て Homunculus の時も I は使ってなかったから元々 I は使ってないの？

日々そうやって生き字引を悩ませたアリスが渡されたノートブックを見て、生き字引からのプレゼントとして喜ぶのとこれから待っている勉強地獄の媒体として憎々しげにつつくのを眺め、生き字引はしてやったりとほくそ笑んだ。

それは生き字引が初めて無意味に笑った瞬間だった。

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