七夜 ページ9
「…どうしたら機嫌治してくれるんですか?」
私がそう聞けば浦田さんは待ってましたと言わんばかりに口角を吊り上げ、私の口に人差し指を当てた。
「Aからキスしてくれたら治る。」
「…はは、ご冗談を。」
浦田さんからの要求は到底叶えられる代物では無いので冗談として流そうとする。
私のその態度が気に入らなかったのか、浦田さんはぶーぶーと文句を言っている。
「Aがしてくんないと俺一生機嫌悪い。仕事できない。」
「…浦田さん、そういう言い方をすると好きと思われてるって勘違いされますよ。」
浦田さんの態度にまるで本当に愛されているかのような錯覚に陥ってしまいそうになって彼に注意する。
いや忘れてた、彼らはそれがお仕事だった。
夢見に訪れた客達にその手練手管と才で一夜の恋と色事を売るのだ。
的はずれなことを言ってしまったと後悔してさっきの発言を取り消そうとする。
「すみません忘れて下さ」
「勘違いじゃなくて本気でAのこと好きだよ。」
浦田さんは私の両頬を手で包み、自分と視線を合わせる。
熱を孕んだ翠の瞳に射抜かれ、甘く囁かれて益々困惑してしまう。
「もう忘れちゃったの?今朝俺本気になったって言わなかったっけ。」
「言い、ましたけど…」
まさか本気だなんて思わない。というか思えない。
彼の"花魁"という位と自分への自信のなさのせいだ。こんなに遊男として素晴らしい人が自分なんかをすきになるはずがない、と。
「Aのこと好きだからまーしぃとキスしててすげームカついた。俺だけのAでいて欲しいのにって。」
「Aが信じらんないなら信じるまで何でもする。告白もキスも交わ」
「わーわーわー!!!分かりましたからそれ以上は言わないでください!!」
危ない単語が出てきそうになって慌てて止めると浦田さんは「良かったぁ。」とはにかんだ。
一先ず彼の機嫌は良くなったようでほっと胸を撫で下ろす。
しかし…まじか。
浦田さんはニコニコと笑っているし、彼がわざわざ嘘をつくようにもみえない。
未だに実感がわかない彼に好かれているという事実にぼんやりとしていると突如後ろから首辺りに腕が回され、身体が後傾する。
「いや全然良くないわ。」
「し、志麻さん?」
「…どういう意味、まーしぃ。」
何故か私は志麻さんの腕の中にいて、彼の意図が読めずおろつく。
「浦田さんだけがAを独占していいわけないやろ。俺もAのこと好きなんやから。」
「……は?」
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はる - 初コメ失礼します!!この小説大好きです!!これからも頑張ってください!!応援しています!! (11月30日 9時) (レス) id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - すいさん» すいさん、読了とコメント、ありがとうございます〜!更新は不定期ですが、皆様のご期待に応えられるようコツコツ頑張りたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします^ ^ (2022年10月13日 0時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
すい - 一気読みさせていただきました〜!!めちゃくちゃ面白いです!!続きお待ちしてます!! (2022年9月18日 0時) (レス) @page6 id: 7c45a007b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - がむしろさん» ありがとうございます!とても励みになります!これからも応援よろしくお願いします(^^♪ (2022年5月28日 15時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 翔さん» いつもお読み頂きありがとうございます!更新コツコツ頑張りますねι(`・-・´)/ (2022年5月28日 15時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年5月9日 10時