十四輪 ページ14
しかしそれも束の間、何故か彼女は踵を返し帰ろうとしていたのだ。
(え、ちょっと待てよ!)
彼女に帰られたら困る、と黒髪の後ろ姿に咄嗟にでかかった言葉は内儀の「お嬢?!」という声により既で飲み込めた。
(は、え…?)
内儀は満面の笑みを浮かべ、彼女の腕を掴んだままぺらぺらと話し続ける。
ついさっきの対応と180度違う。とても同じ人への対応とは思えないくらいだ。
彼女は困惑しているようだが、内儀に全く気にしている様子はない。
状況が微塵も理解できないが、内儀のあの対応はかなりの上客に対するものだ。
(あの遊び慣れていないような彼女が上客…?)
どういうことだ、と精一杯考えていると彼女と一緒に来ていた令嬢の1人が内儀の肩をがし、と掴んで「どういうことですか?」と聞いた。
内儀はニコニコと笑って、まるで自分のことのように話した。
「このお方は、ここ中原遊郭の一帯の地主、吉高様のご令嬢、A様なのです。」
(…は、あの娘が吉高様の…?)
吉高様というのはこの中原遊郭に土地を提供している大地主だ。吉高様が土地を貸して下さっているからここに遊郭ができ、舗を置けている。その事実は中原にいるものは誰でも知っていることだ。だからここのもの達は誰も吉高様に逆らえない。
そんな吉高様の娘が彼女だというのだ。
思いにも寄らなかった事実を何度も反芻し、なんとか状況を整理しようとする。
(だめだ、全然結び付かねぇ…)
吉高様は今でこそましになったものの、彼が吉高家の当主になったばかりの頃は大層女遊びが酷かったと聞く。
毎夜毎晩遊郭に足を運び、遊女屋のあらゆる女に手をだしては舗を転々とする。
自分に誰も逆らえないということを分かっているため、舗でもやりたい放題、遊女の扱いも雑で彼を恨んでいるものも少なくないらしい。
俺も1度この舗にきている吉高様を見たことがあるが、権力を盾にふんぞり返っているその姿に強く嫌悪感を抱いたことを覚えている。
いかにも清廉潔白で悪事とは無縁そうな彼女が、あのたぬきオヤジの娘だなんてどう考えても信じらんねぇ。
親子なら必ずしも似たような性質だという考えは偏見でしか無いのだろうけど。
そんなことを考えていると、いつの間に来たのかさっきまで彼女に付きっきりだった内儀がすごい剣幕で俺を捲し立てた。
「ほらほら浦田何ぼーっとしてんだい!早く支度してA様のとこに行きな!」
俺が考え込んでいる間に既に内儀は彼女を2階へ通していたようだった。
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藍瑠(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!そう言って頂けて本当に嬉しいです。続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - ウルさん» ありがとうございます!嬉しいです、続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - 匿名希望さん» ありがとうございます!更新頑張ります! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - Haoto-ハオトさん» ありがとうございます!更新不定期ですが、気長にお待ち頂けると幸いです! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
藍瑠(プロフ) - えゆさん» ありがとうございます!続編もよろしくお願いします! (2022年3月15日 16時) (レス) id: 52af00e4b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍瑠 | 作成日時:2020年3月16日 20時