格子から見上げる世界 壱 青×緑 桃×赤 橙×黄

No.50 ページ47

無

 

今の俺は『無』

 


ただただ、無…

 

 


 

滞りなくお座敷を終え

 

同衾の用意をする

 

 


俺の部屋には布団一式が用意されており

 


これから起こることを如実に物語っている

 


 

「緊張してるんか、緑翠」

 


 

「あっ…ごめんなさい

濱田様…

私が濱田様を楽しませる立場ですのに

黙ってしまって…」

 



「ハハ…そないに堅くならんでええよ

緊張してる所も可愛らしいで」

 

 



そっと俺の首筋に濱田様の指が滑る

 



ビクンっ…


 

大きく震える体

 

 
 

嫌や…

 

 

「緑翠…ほら、怖がらずに目を開けて

少し話そうや

お前は孝行な子なんやってな

家の為に自分からこの郭に来たとか」

 

 

「あっ…なんでそれを」

 

 

「楼主が教えてくれたよ

俺がお前に興味を持ったと言ったら全て話してくれた

余程お前の水揚げの相手を俺にしたかったんやろな」

 

 

「あっ…その…

つまらない私の身の上話でお耳を汚してしまい

申し訳ありませんでした

かんにん…」

 



「つまらないなんて思ってへんよ

家族の為に自分を犠牲にして、ここにおる

大人の男達の欲望が渦巻くこの世界にな」

 

 

「………」

 

 

濱田様の表情がどんどん無くなっていく…

 


 

「でも、お前は見つけたんやろ

こんな世界でも大切に思う男を

なぁ…緑翠」

 

 
怖い…

 

 


「ハハハ…そんな怯えた目をせんでもええやん

何で分かったかって？

お前の瞳の中にそいつがおるよ

お前はそいつの事を考えてる時は、甘くて愛おしいと瞳が訴えとる…」

 

 

俺の目の縁を濱田様の指がなぞる

 


 

「汚してしまおうか…

そんな瞳

色を売るお前には要らないものだからね」

 

 

クスクスと楽しそうに笑う濱田様

 


俺には、ただただ、恐怖しか感じえない

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