どうすれば ページ27
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ドクドクと早鐘を打つ心臓。
金魚のようにはくはくと口を開閉しては、声にならず。酷く冷たい六つの目が私を見下ろして、一歩近づいた。
「あー……君、今の話聞いてた?」
恐怖で声も出ないとはこのことか。
私の喉は上手く震えてくれず、呼吸だけが浅く速く。
無言を肯定の合図だと、そう思ったらしい男は鼻で笑った。笑って、散らばったノートとスマホを私に手渡し、ニッコリと貼り付けたような笑顔で。
「今聞いた事、他言したらどうなるか分かるよな?」
ぽん、と肩に置かれた手。
次第に強まる力に、私はいいえと言えず。
*
「A、遅かったわね。」
校舎を抜け、私を待つ三人の元へかける。
野薔薇に声をかけられたと頭では分かっていても、私の頭の中は到底その返答を考えるに及ばなくて。
「あー……、うん。ごめん、先生に捕まってて」
あはは、と口の上で笑って見せたが、顔は上手く作れているだろうか。
「ふうん」と味気ない返事をくれるあたり、特別変には思われていないはずだが。
「ま、早く行こーぜ」
ニコリと笑う悠仁を見て、私は思わず息が詰まった。
───何も、できなかった。
あの三人の会話を聞いて、これから起こることを誰よりも知っているのに私の足はびっくりするほど情けなくて。
自分のすべきことはわかっていたのに、動けなかった。
詰まるところ、私は宿儺よりも自分の身を優先してしまって。
「寿司とかいつぶりだろ」
「確かに最近行ってないな」
皆の声が、上手く拾えない。
「いつものとこでいい?あそこなら多分、」
「あ、あのさ!」
一歩後ろを歩いた私の声に、皆が立ち止まって振り返る。
「あの、ね……」
──どうすればいい。
今この場であの三人を野放しにしたら、私は近い未来後悔することになるかもしれない。
宿儺なら大丈夫という謎の信頼と、あの三人ならやりかねないという不安がせめぎ合う。
悠仁や伏黒にどうにかしてもらう?
この二人が居ればきっとあの人達なんて造作もない。が、怖いのはその後だ。何も関係ない二人を巻き込むなんて、私にはできない。
……私に、出来ること、なんて。
「……A?」
揺れた瞳が、私を見つめた。
そんな悠仁の奥に、私はどうしても彼を見出してしまったから。
「私、ね───」
私の決断に、間違いはない。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時