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私よりも幾らか大きな体の宿儺が一歩、こちらへ歩みよる。
伸びた腕に恐怖を覚えて目を瞑りながら仰け反れば、想像より遥かに小さな痛みがおでこに走った。
「───怯えすぎだ、馬鹿者め。」
そう言って宿儺が薄く笑った。
……笑った?いや、というより今こいつ“デコピン”したか……??
「おい、何をしている。」
「ちょっと待っててください尊さを噛み締めているので。」
「は?」
「はいすみません黙ります。」
天を仰いでギャップを噛み締め数秒。宿儺の威圧の籠った一音により呆気なく終了。
はあ、と溜め息が聞こえて顔をあげれば、やはり何処か不服そうな宿儺の顔が伺える。
彼は今度は山の中腹あたりで腰を下ろすと、半分ほどに開いた気だるそうな眼で私も座るように促した。彼より数段下の場所に。
一応座る位置の上下は気にするのね。
「お前、何故呪術師なんぞしておる。」
グラグラと不安定な足場にやっとこさ座れたかと思った矢先、飛んできたのはそんな質問。
「何故……?」
宿儺と普通に話をしているこの現状も可笑しいのに、果てには宿儺の方から質問をしてくるのだから私は困ってしまう。
彼の問いかけを意味もなく繰り返して沈黙。「早くしろ」と、やっぱり変なところで俺様を見せつけてくるからよく分からない。
「何故って別に、そういう体質に恵まれているから……ですかね。」
「だからと言って命を懸ける理由にはならんだろう。」
「えー……まあ、確かに。」
意外にも、押し負けてしまったのは私の方だった。
今思えばこれと言って理由なんてなかった。ただ呪霊が見える体質だったから。ただ人より少しだけ呪術を扱えたから。
「……あ、」
零れた声。宿儺が何事かと首を傾げる。
「不純っちゃ不純ですけど、お金の為ですかね。」
「はぁ?」
見るからに呆れてますと言わんばかりの宿儺の顔。
いや、呪いの貴方が言えた義理じゃないでしょう。
「小さい時から親がいないんです。施設で育ったんですけど、18歳になったら独り立ちしなくちゃ行けなくて。」
その点、高専はいい。
寮を与えられるだけでなく、生徒にまで給与を支払ってくれるのだから。
「生きるためだと思えば、命を懸けるのも相応の対価じゃないですかね。」
自分でも、呪い相手に何を言っているのだろうかと思った。
宿儺は何を問うでもなく、ただ静かだった。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時