25. ページ27
.
私の世界に再び色が戻った時、私は私だった。
真っ白な天井。真っ白な壁。
少し鼻につく薬品の匂いと、中庭から聞こえてくる子供たちの笑い声。
紛れもない、現実だ。
「…………え、」
久しぶりに揺らした自分の喉は、酷くかさついていてしょうがない。
声にも満ち足りぬ一音が滑り出て、漸く私は自分の体に戻ったという事実を噛み締めた。
と同時。
今までの出来事が夢だったのではないかと、私は備え付けの机の上に置かれていたスマホを手に取った。
あの日から随分進んでしまった時間。
動くとまだ鈍く痛む頭。
カメラロールに並ぶ、大好きな彼の顔、だとか。
「…………っ!」
彼の顔を見た瞬間、私は地面を蹴って病室を飛び出していた。
すれ違う看護師に注意されど、私の足は止まることを知らない。
だって今止まってしまったら、私は。
私、は。
「──……悠仁君!!」
がむしゃらに走って、走って、高専の扉をくぐって彼の名を叫ぶ。
そこにはずっと会いたかったはずの彼がいて。
そう、会いたかった、はずなのに。
「……え、橘!?」
病院から飛び出してきた私の格好を見て、悠仁君は驚き呆れたように目を丸めて私の名を叫ぶ。
会いたかった人。
でも、私が駆けた理由は貴方じゃない。
私が今、この心臓を強く痛めて止まないのは、貴方じゃ。
「悠仁君!!宿儺!出して!!今すぐ!」
「はっ、……?え?なんで?」
「いいから早く!!」
痛い、痛い、心臓が痛い。
数ヶ月ぶりに深く息を吸った肺が痛い。
私が何度訴えても、悠仁君は一向に取り合ってくれない。
当たり前、だ。
宿儺なんて出せば、今この場にいる人間全ての命に危険が及ぶのだから。
別に急ぐ必要なんてないのだ。
でも、それでも。私の全細胞が強く叫んでいる。急がねばならぬと追い立てる。
「……ごめん。」
小さく呟いて、彼の頬に手を這わせる。
這わせて、強く引き寄せて───あの時と同じように勢いよく頭を叩きつけた。
がん、と鈍い音。
悠仁君、痛い思いばっかりさせてごめんね。
足の先まで駆け抜ける痛み。
薄れていく意識。霞む視界。世界が闇色に染っていく。
不思議と、怖いとは思わなかった。
この闇の先、貴方が居るのだと思ったら、それさえも愛おしく思えるから。
.
1626人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時