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あの日。煉獄の家に行った日。

俺は何も出来なかった。 橘を探してやれなかった。



今だって分かっている。あの煉獄の言葉は、顔は、俺を嘲笑うような態度は、絶対に、





「…………。」





一人きりの自室。布団に沈むように体を預けて、意味もなく彼女とのトーク画面を開く。


あれ以来、殆ど毎日かけている電話。

これでもし彼女が本当にただ逃げただけなら、俺はとんだストーカー野郎なんだけど。




……。


…………知ってる。もう彼女がこの電話に出ないことなんて知ってる。

それでも俺は、二人を繋ぎ合わせるたった一つの方法を無下にしたくなくて。





慣れた手つきで、ゆっくりと。

右上の電話マークに指を重ねた。





『────…………はい、』


「……ッ、!」





慌てて跳ね起こした体。

思わず耳から離して画面を確認。

……繋がって、いる。




「 橘っ、……!? 橘か!?」


『……はい。』




少し聞かない間に随分と暗くなった声色。可愛げのない返事。


でも、そんなことはどうだって良かった。

彼女が無事なら、何だって。





「お前今どこにいるんだよ!!」

「……心配したんだぞ……!」

「…………なあ、……聞いてんのか?」




息の揺れる音。大して変わらないと知りながら、俺は画面に耳を押し当てて。





『…………もう、電話、よこさないでください』


「……え?」





開口一番。彼女が口にしたのは「久しぶり」でも「すみません」でも何でもなく、たったそれだけ。





『迷、惑です』


「…………何、言って」




訳が分からなかった。

橘はそんなこと言うやつじゃない。そして何より、お前は、今、何処に。





「……なあ、何処にいるんだ?」


『…………。』


「……頼むよ……答えてくれ……。

俺はずっと、……ずっとお前のことが心配で……」


『……他人のあなたに、関係ないでしょう。』


「他人じゃねぇよ!!……俺は、……っ、

…………俺は、お前が──」






自分でも何を言うつもりだったのきかは分からない。
この時の自分が何を思っていたのかも分からない。



ただ一つ分かることは、もう、俺は。






『──……っ、助けてっ、

…………くれなかったくせに……』





俺はいつだって、何もかもが遅すぎた。



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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , ヤンデレ   
作品ジャンル:恋愛
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時

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