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「うわっ、びっくりした。」
驚き固まってしまった私を他所に、彼は瞬時にその化け物を振り払う。腕一つで振り払えるだなんて、彼が凄いのか、はたまたそれが普通なのか私にはわからない。
「お前、寄せ付けやすいんだな。」
俺そういう人は初めて見た、と笑顔ながらに語る彼を横目に、私の頭の中はグルグルと疑問が渦巻いている。
うようよと視界のそこら中に湧いては消えていくお化け達。今みたいな大きい人型もいれば、虫のように蠢く気持ち悪いものもいて。
そう。これが私の普通。私の世界。
綺麗なものなんて何一つ見えたことがない。見えたとしても、どこかしらに彼ら異物が混ざりこんでしまう。
……もし、かして。
「ま、これからは気ぃ付けろよ」
「待っ、て」
「おわっ」
遂に足の上に虫のようなそれが這い上がってきたその時。
私は一縷の望みに託して、もうこうなったらヤケだとギュッと目を瞑り、去っていく彼の腕に勢いよくしがみついた。
そして、開いた、瞳の先。
「…………居ない」
居ない、居ない、どこにも居ない。
視界に映るのは突然抱きついた私を不思議そうに、そしてやはり男子だからか恥ずかしそうに見つめている彼と、只管に美しい月明かりだけ。
時折道路を横切る車も、自転車のライトも、そして私自身にだって、何一つ邪魔なものが見えない。
ただ、世界がそこにあった。
「なになに、どうしたの。」
「…………。」
「やっぱり足痛む?家まで送ろうか?」
「…………っ、」
この美しい景色だけが故では無い。
私の視界に初めて映った太陽のような彼が駄目だった。
優しい声と、温かい瞳と、柔らかな笑顔がこの十数年間の日々を明るく照らしてくれたような気さえしたのだ。
「えっ、なあ、どーしたの」
「……ちがっ、うんです」
「ばかっ、泣くなって……。痛いよな、ごめんな、もっと早く来てれば、」
「だからっ、違うんです。」
ボロボロと溢れ出す涙は止まりそうにない。
幼い頃流してから今の間までの空白を埋めるようなそれは、彼を困らせるだけだと知りながらも。
何故かは分からない。
でも分かったことがただ一つ。
「──ずっと、傍にいてください……。」
彼に触れているこの瞬間だけは、私はお化けが見えなくなるらしい。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時