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驚いた。
存外、Aは自分の欲に弱かったらしくって。
あの日を境に、悠仁の態度が変わったのは誰がどう見ても一目瞭然であった。
距離の縮まった呼び方だとか、実際に縮まった二人の距離だとか。
愛おしそうにAを見つめる代わりに、彼よりもずっと居た堪れない顔のAだとか。
思うに、Aはあの事を悠仁に伝えていないようだった。
別にだからと言って何が悪い訳では無い。あの子も漸く自分の気持ちに素直になってくれたのなら、それに越したことはないのだけれど。
まさかあの悠仁の愚直な性格が、こうも悪く転ぶとは夢にも思わなくて。
「ちょ、ちょっと虎杖!!Aのこと追いかけなくていいの!?」
「あぁ……、まあ、そうだけどさ。」
「……っ、……何で、あんたそんな冷静なの?」
「釘崎が慌てすぎなんだって。」
いや、流石に悠仁はもう少し焦った方がいい。
と思うけれど口に出すには至らず。
やはり随分と余裕そうな悠仁は、徐にスマホを取りだしたかと思えば、そっと耳にあてながら部屋を後にした。
「恵」
さて、何よりも今、僕が気になっているのはこっちの方。
恵も恵で、元々の性格もあるにはあるのだけれど、悠仁と同じく不気味な程に落ち着いた様子で。
僕の声に、そっと視線を動かせど返事はない。
「何であんなこと言ったの?」
一秒、二秒、三秒。
たっぷりと時間をかけて、その長い睫毛が贅沢に揺れ動く。
相変わらず何を考えてるか分からない表情で、あんまりに視線が合わないものだから、聞こえていないのかともう一度口を開きかけた時。
「……別に。」
恵は何を見るでもなく、ゆっくりと瞳を左右に揺らした。
恵は、人の気持ちを汲み取るのに長けた人物であると僕は思う。
そんな恵だから───否。恵でないにしても、あの時、あの場で。あの二人にあんな言葉をかけるのは、限りなく不正解で。
「───早くどうにかなれって、そう思ったからじゃないっすかね。」
声にして、その後はどうするでもなかった。
投げ捨てるような言葉と、最後まで後を引く彼なりの優しさ。
ふうん、なるほど。恵も案外やるじゃないか。
これだからやめられないんだよね。大人として、第三者として若者の色恋に関与するのは。
「若いっていいねぇ」
悠仁。お膳立ては済んだんだ。
後はどうか、君の後悔のない道へ。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時