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「A!」
寮の玄関を開ければ、真っ先に視界に飛び込んでくる桜色の髪の毛。
顔を見るよりも先に、私よりも一回り大きな体が勢いよく私を包み込む。
「おかえり!大丈夫だった?なんか変な奴とかに……」
「っておーい虎杖、野薔薇様は無視かよ。」
「あ、釘崎も買い出しさんきゅーな!」
ぱっと視線を上げて野薔薇ちゃんの方を見れど、一向に手を弛めてくれない虎杖君。
伏黒君も五条先生も見ている中、この体制は少し……いや、かなり恥ずかしい。
一足先に上着を脱いで中へ入っていく野薔薇ちゃんがニヤリと笑う。「ほら、言ったじゃん」と言いたげなその目に、尚更先程のことを思い出してモヤモヤとして。
「次は俺も一緒に行くから。」
離された腕の代わりに、強く繋がれ直した両手。
ニコニコ、ニコニコ。
何が楽しいのか、何を考えているのか。分かりやすいようで分からない。虎杖君は何一つ悟らせてくれやしない。
手を握るのも、抱きしめるのも。
世間一般では、それらは愛し合う恋人同士が行うもので。
私は彼の何者でもない。以前までの体質のお陰で隣に居られただけの、ただの他人。友達という言葉さえ厚かましく感じてしまう私たちは、一体、
「虎杖ってさ」
ふ、と。
珍しい声が鳴ったものだと、その場にいた全員の視線が伏黒君へ向かった。
虎杖君の名を口にして数秒。
続きを予測させる息の終わりとは裏腹に、中々次が出てこない口元を私はじっと見つめて。
静か、だった。
その静寂を破ったのは、やはり視線の先の彼で。
「───橘のこと好きなの?」
一瞬。一瞬だ、一瞬。
一瞬だけ秒針が止まり、一瞬だけ全員の指の先までもが固まって。
そうして息の仕方さえ忘れかけた頃に、再び時間は動きだした。
「……え、」
誰かの声。もしかしたら私だったかもしれないその声は、きっとこの場の全員が心の中で零したであろう一音だった。
全ての元凶である伏黒君は、やはり何を考えているか分からない顔で、その長い睫毛の下に瞳の色を隠していた。
そうして視線を滑らせ、野薔薇ちゃん、五条先生、次いで一度、瞬きを落として。
「…………」
口を開きかけた虎杖君と、目が、合って。
未だ私の手を強く握った虎杖君と、目が合って。
「───……やめてっ、!」
すんでの所で喉元から出た叫び。
私は虎杖君の手を振り払っていた。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時