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何と答えれば良かったのだろう。
別に隠す必要なんてどこにもないのだ。隠していたつもりもない。ただ“言う機会がなかった”から言わずに閉じ込めていただけのことで。
「………………そうですよ。」
数秒。数十秒。
とにかく私の口から次の言葉が出るのは容易ではなかった。
自然と力の篭もる拳を膝の上で抑えて、小さく息を吐いた。震えている。五条先生に気づかれてしまいたくなくて、飽くまでも普段を装って声を上げた。
「見えない、って訳じゃないんですけどね。」
「……。」
「見えるけど、何となく祓い方が分かるようになって。」
「……。」
「って、そりゃあ先生達が戦うような呪霊相手じゃ手も足も出ませんけど。」
あはは、と声が空回ったのは私だけ。
一切の表情の機微を読み取らせてくれない五条先生は、ただその口を閉ざしていた。
───霊が、消えた。
厳密に言えば、ある程度念じれば視界から消えてくれるようになった。
理由は分からない。まあ、多分、虎杖君達の任務についていくことによって耐性がついたというのが大きいのだろう。
どこを見ても、ただ世界がそこにあった。
街に出ても、眩しい太陽だけがキラキラと私を照らしていて。
「良かったじゃん。」
良くないだなんて。
言える訳もなくて。
「これでもう一人でも生きていけるね。」
五条先生が笑う。
含みのある笑みが、ゆっくりと心を蝕んでいく。
───ずっと自分を呪いながら生きてきた。
下を向いて歩いていた。けれどももう、その必要は無い。
太陽が見れないでいた。太陽は、すぐ、そこにあるのに。
「おめでとう、A。」
あ、と口を開きかけて、私は言葉に詰まる。
言いたくなかった。言って欲しくなかった。
私がここに来たのはこの体質のせいで。
私が彼の隣にいれたのもこの体質のせいで。
それが無くなってしまった今、私、は。
「…………ありがとう、ございます。」
嘘が下手だと、自分でも思う。
あまりにも不細工なその言葉にさえ、五条先生は何を問いただすこともしなかった。
どうだろう。彼は、分かってて、こうやって。
「悠仁には教えてあげたの?」
「……まだ、です」
「何だ、早く言ったらいいのに。」
五条先生が、薄く笑った。
「悠仁、きっと喜ぶと思うよ。」
私は、作り笑いさえできずに。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時