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誰か一人の異性に対して特別な感情を抱いたことは無かったけれど、俺が橘に惹かれるのは殆ど時間の問題だったように思う。
俺を優しいと褒める彼女は、自分が誰よりも優しいことに気づいてない。
俺の笑顔が好きだと言う彼女は、自分の瞳が誰よりも澄み切って美しいことに気づいてない。
詰まるところ。
俺は彼女──橘Aにどうしようもなく惚れてしまったらしい。
何故俺に触れると霊が消えるのかは分からない。それもこれも呪われた体が故なのだとしたら、この身も悪くないと思えてしまうのだから重症だ。
でも、駄目だった。
どれだけ仲良くなろうと、どれだけ彼女に近づこうと、それら全ての枕詞に『そういう体質だから』と置かれてしまう。
俺は、彼女を助けたい。
けれど、呪霊云々よりも前に、たった一人の人間として俺を見てほしい。
そう思ってしまうのは、我儘なんだろうか。
「おい、小僧」
ある日。
いつもは寡黙な宿儺が、珍しく自分の方から俺に話しかけてきた。
丁度その時も橘のことを考えていたせいもあって、何だか嫌な汗が伝って。生返事を返せば、宿儺はまた不気味な笑い声をあげた。
「お前、あの小娘に随分と惚れ込んでるらしいな。」
「……なっ、!」
図星をつかれてしまったことへの恥ずかしさと、宿儺にバレてしまった焦りで思わず頬を叩く。
しかし今度はその反対の手の甲に口が開いた。
「──次お前の体に乗り移った時は、まず一番にあの娘を食ってやろう。」
俺は、震えた。
“あの時”と同じような全身全霊の怒りが込み上げて、沸々と俺の心を闇色に染めていく。
「ふざっ、けんな!!」
勢いに任せて、自身の手を壁にうちつける。
パラパラと崩れ落ちるコンクリート。いつの間にか消えてしまった宿儺の口。
「……ふざけんな」
もう、嫌だった。大切な人が自分の前で死んでいくのは見たくなかった。
宿儺はきっと、橘のことなんてどうでもいい。
ただ俺が。橘を傷つけることによって俺が誰よりも悲しむと知った上で、彼奴はそう言ったんだ。
駄目だ。このままじゃ、俺が、あの子を傷つける。
これ以上は、駄目だ。
だから。
───その夜、任務帰りの俺を手当してくれた橘の手を、俺は振り払った。
初めて、彼女に触れられることを拒んだ。
橘は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時