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俺があの日、あの夜、橘を助けたのは情でも何でもなく、ただ純粋に彼女の支えになりたいとそう思ったからで。
いきなり涙を流した橘には心底驚いたけれど、月が綺麗だと涙ながらに語る橘の瞳は本当に綺麗で、俺までもうっかりと泣いてしまいそうだった。
だからもっと、彼女に色んな景色を見せてあげたいと心から思った。もっと彼女の笑顔が見たいと、強く思った。
俺の手で彼女を光の方へ導くことが出来たなら、それはどれほど素敵なことだろうかと。
*
「あの子を気に入る気持ちはわかるけど、気をつけなよ、悠仁。」
橘を高専へ連れてきた翌日のことだった。
一度家に帰ると言った彼女のことを思いながら迎えた朝。いつものようにいきなり目の前に現れた五条先生が唐突にそう言った。
「気をつける?」
気に入ったという事実は否定せずに、警告らしきその言葉を繰り返す。
相も変わらず一切の表情を読み取らせてくれない先生は、ただ口の端だけを釣りあげて続けた。
「宿儺だよ。」
そうして彼の口から放たれた言葉は、俺が想像してたどの解答例にも当てはまらなくて、言葉に詰まる。
何となく頬を摩ってみたけれど、やっぱり五条先生が言わんとしていることは分からない。
「宿儺だって呪霊の類なんだ。
うっかりあの子のこと食べちゃったら大変でしょ?」
あはは、と笑って見せたのは先生だけだった。
反して俺は体という体が音を立てて固まり、頭の奥は酷く冷めていく。
……宿儺に体を乗っ取られることはまずない。それでも、もし何かの手違いであの子を傷つけてしまったら。
俺が、あの子を、
「笑わせるな、人間」
最悪の想像が脳天を貫いたと同時。
目の下に違和が走り、忌々しい声が響く。
「あんな低級呪霊ばかりが集る小娘に興味なぞないわ。」
きしし、と不敵な笑みを浮かべる。
俺はこの時ばかり、こいつの性情に助けられたことは無いだろう。
「あら、好みじゃなかったか。」
五条先生の何処か楽しそうな声にピクリと反応して、宿儺が消える。
未だ頬に残る感触に手を這わせて、頭の中を巡るのはあの子のことばかりで。
───もし、俺のせいで彼女を傷つけたら。
守りたいと強く思う一方。どこまで行っても俺は呪われた身なのだと、自分を深く嘆いた。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時