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───初めて“ソレ”を視認したのは、物心がついてすぐの事だったと記憶している。
幼い日の時分。短い人生経験でも直ぐにわかる、明らかに異常な“ソレ”を見て泣き喚かない訳もなく。
何度も拙い言葉で訴える私に、母は少し困ったように笑うだけだった。次第に、私も何も言わなくなった。否、言えなくなったのか。
兎に角幼ながらに自分が人とは違うことを悟ってしまったのだ。皆は“ソレ”が見えていないと気がつくのだって、そう時間はかからなくって。
───そうして迎えた、高校一年生のとある日だった。
「…………はあっ、はっ、……!」
痛い。痛い。肺が痛い。
只管に動かし続けた足はもう殆ど言うことを聞かないし、枯らしてしまった喉じゃ助けを叫ぶことさえままならない。
『ネぇ、まっテょ?』
「いやっ、……!!」
本能が拒絶するような空気と、気味の悪い緩急の語り口調。振り返れば死しか無いのを肌で感じるから、私はただ逃げることしか出来なくて。
学校からの帰り道。相も変わらず人ではない彼らからの幾多もの視線を受けながら、それら全てを無視していた私。
暗くなってしまった道の脇、人が座り込んでると思って近づいたのが不味かった。
声をかけると同時に伸びた生白い手のようなもの。
ギギギと音を立てて有り得ない方向へ曲がった首。
しまったと、思う頃には遅かった。
「……っ、」
逃げ延びた先。ただでさえ人の少ない夜道、私は何も考えずに路地裏の方まで来てしまったらしく。
『つー、カマーぇた』
「…………いや、っ!」
けたけたと気味の悪い笑い方をする人のような化け物。
情けなく抜けてしまった腰と、もう立たない足を引き摺って退く。
が、そんな抵抗目の前のこれには通用しない。と言うより、さっきまでの追いかけっこもこいつにとっては遊びのようなものだったのだろう。この路地裏に追い込んだのだって、私の反応を見るのが楽しいだけで。
ぐぱ、と粘液が糸を引く歯が並ぶ、大きな口が開かれる。
生命の構造ではない、喉の奥に広がる果てしない闇を見て悟る。
今までとは違う。ただ私を驚かせようとしてるお化けなんて比じゃない。
あぁ、そっか。
もう、私は。
「────何、してんだ。」
死の一文字が脳裏を掠めたその瞬間、視界に映ったのは桜色の髪をした彼だった。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時