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とまあ、カッコつけていたのも二時間前の話。
今の私は、頭の中に後悔の二文字を見出さざるを得なくて。
呪霊が現れる度に、三人のうちの誰かしらが助けてくれる。そしてまた次の呪霊を誘き出す為にすぐ消えてしまう。殆どモグラ叩きのような感じ。餌は私。
「…………はぁ」
溜息。さっきよりもずっと大きな。
正直、呪霊云々に関してはそこまで気にしていない。だって必ず誰かしらが助けてくれるし、見た目が気持ち悪いのだって慣れているから。
問題は私にしか見えない幽霊達。
やはり元は学校だからか、かつての人々の記憶の残穢が至る所にこびりついている。
勿論そのどれもは気持ちのいいものでは無い。
虐められていたであろう女の子のすすり泣き。
それを嘲笑うかのような甲高い声。
心霊スポットなどに行かなくとも幽霊はいる。それは本当。
けれど、そういう所に行けば余計に数が増すのも本当のことで。
「…………っ、」
フラフラと覚束無い足取り。頭が痛い。
息が上手く吸えなくて、瞬きをするのも億劫で。
『きミ、だァレ?』
「……あっ、」
声が出ない。
足が、動かない。
「───玉犬!!」
ふ、と。
視界に飛び込んでくる犬と、伏黒君の声。
「大丈夫か、橘。」
「あ、……え、うん。」
ありがとうの言葉は、酷く小さく頼りなくて。
「これで全部だ。帰るぞ。」
「そ、っか」
「立てるか?」
すっと差し伸べられた伏黒君の手。
躊躇いつつもその手を取ると、ひんやりとした体温が気持ちよくて、どこか慣れない。
線の細い手。確かに筋肉質ではあるけれど、あの人よりかは幾らか細い────
「……。」
…………、私、今何考えてた?
「……橘?」
心配そうに顔を覗き込む伏黒君。私は咄嗟に、笑顔を装う。
「ごめんごめん、大丈夫だよ。」
細く開いた視界から見える、数多の霊とその声。
今の私は、果たして上手く笑えているのだろうか。
立ち上がった私を見て、伏黒君はその手を離した。
踵を返し歩き出す伏黒君の背中をぼーっと眺めながら、頭の中を巡るのは先程の自分の言葉。
最低だ、私。
─── 一瞬でも、助けてくれたのが虎杖君だったらと考えてしまった。
手に残る伏黒君の冷たい温度。
唇を噛み締めると同時、その温度を忘れるようにぎゅっと握りしめた。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時