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ささやかな抵抗として五条先生を睨みつけておいた。会って間もないのに扱いが雑になってるのは多分気の所為。
微妙な表情のまま仕方なく受け入れてくれた虎杖君に申し訳なさを感じつつも、彼に手を引かれるままに後ろを着いて歩いた。
先程まで他愛もない話をしていた私達も、先程の部屋の件でお互いに口を閉ざしてしまって。
何とも言えない空気が流れる中、私は声をかけようと口を開いたのだけれど。
「ごめんな。」
「……え?」
私が声を発するよりも先。
ごめんと口にしたのは虎杖君の方だった。
「幾ら何でも、男と二人って嫌だろ。」
「えっ、……うーん、……それは」
嫌じゃない、と言ってしまえば嘘になる。何よりも、嫌じゃないと言ったら私がそういう女の子に見られてしまいそうで怖い。
でも、嫌と言い切るのも何か違う気がして。
「虎杖君だって同じでしょう。」
「俺?」
「うん……。寧ろ、私の方こそ、迷惑かけてばっかりで……。」
当たり前だ。今この瞬間、理不尽な目に遭わされているのは他でもない虎杖君だから。
だって私は彼のお陰でお化けを見なくて済むけれど、彼は私を助けたところでなんの見返りも無い。
あの時、あの場所で私を捨てて去ることだって、彼にはできたはずなのに彼はしなかったのだ。
本当に、どこまでも、お人好しで。
「優しいね、虎杖君。」
素直に思ったことを口にすれば、一歩先を歩く彼の足が緩まった気がした。
そして僅かにこちらを振り向き、驚いたように目を見張ったかと思えば、ふっと微笑んで。
「俺、優しくねぇよ。」
「……え?」
いつもの弾き飛ばすような声とは違う、静かな声だった。
あんまりに静かで、それでいて優しい声色だったから、私は思わずその先の言葉を待ち侘びて。
「──誰にでも優しい訳じゃない。」
含みのある言い方。
子供っぽい彼に似合わぬ大人びた笑顔。
虎杖君は優しい。
まだ出会って数日だけれど、それは痛いくらいによくわかる。
野薔薇ちゃんや伏黒君。勿論先輩方との関わりの中でも、彼の人物像は想像するに難くなかった。
きっと、誰にでも優しい。
今だって、私なんかに、こうして優しい言葉をかけてくれるのだから。
「俺はあの時、橘だから助けたいって思ったんだよ。」
胸が鳴って仕方ない。
それもこれも全部、多分、この繋がれた右手のせいだ。
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ひめな(プロフ) - めっちゃ私の好みの小説でした!出来れば続編のパスワード教えて欲しいです! (12月9日 2時) (レス) @page45 id: b03f19678b (このIDを非表示/違反報告)
眠民。 - 初コメ失礼します!ゆきさんの呪術廻戦シリーズ一気読みしました!!最っ高でした‥虎杖大好きなのでほんと嬉しいです。。虎杖の作品少ないですよね😭😭共感してくれる人いた‥。本当に神作品をありがとうございました!長文失礼しました!! (11月26日 14時) (レス) @page45 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
みるちょこ(プロフ) - コメント失礼します!とても素敵な作品でした!続編のパスワード教えて欲しいです! (2023年3月17日 22時) (レス) id: 2858c63edd (このIDを非表示/違反報告)
ライム - すごくいい作品でした!最後の言葉なんて言ったのかめっちゃ気になります!こんな最高のお話を作ってくれてありがとうございますm(_ _)m (2022年11月5日 12時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
あい - 続編のパスワードを教えて頂きたいです! (2022年9月19日 4時) (レス) @page45 id: ea066f037b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月30日 23時