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私が言葉を失ったのは、彼に対して失望したからでは無い。ましてやその好意を疎ましく思うわけでも。ただ、信じられなかったが故なのだ。
この数年間の友情が簡単にそれを信じさせてはくれない。
夜の空気が、大きく揺れる。すぐ目の前に冨岡がいるというのに、私の心の中の彼はずっと遠くで立ち竦んでいた。
「…………嘘、でしょ?」
抱く疑問としては当然のものだった。ただ、私の口から出た言葉は多分、不正解で。
冨岡が分かりやすく口の端を噛んだ。握った拳が震えていた。確かに、確かに何かが崩れていく音を私は聞いた。
「…………すまない」
漸く口をついて出たその言葉は、酷く頼りなくって。
違う。私が言って欲しかったのはそんな言葉じゃない。
何でそんなに悲しそうな顔をするの。
何で一言否定の言葉さえくれやしないの。
何で、何で。
「…………いつから?」
「いつから…………、」
零れ落ちた私の言葉を冨岡は繰り返した。
繰り返して、懐かしむように視線を落として、また大きく瞬きをし。
「分からない。……多分、ずっと前から。」
ずっと前?
ずっと、っていつ?何でもっと早く、何で私なんか、じゃあ、あの時は。この時は、私に優しくしてくれたのだって全部、
「───…………二年前、は?」
二年前の忘年会。
ごめんね、とっくに私は忘れてしまったけれど、あなたはずっと覚えていたんでしょう。
ねぇ、どんな気持ちで私と、あんな約束を。
「好きだった。」
たったの五文字。それだけ。
今の私を苦しめてしょうがない。
また一つ、生温い風が頬を撫でた。眠かった。もう、瞬きをする気にもなれなくって。
数歩先。冨岡はやっぱり、何を考えているか分からない顔で私を見つめている。
一歩、徐に大きく踏み出した。
一歩、退けようとした私の右手を彼が掴んだ。
一歩、溜め息が出そうな程に美しい瞳が、私を捉えた。
「A、」
私は、私を呼ぶ彼の声が、好きだった。
「……、……えっ、」
くい、と。
引き寄せられる右手、否、体。
溜め息が出そうな程に美しい瞳に相応しい、整った顔が近づく。
「────い、やっ!」
瞬間、どん、と鈍い音。
その場に倒れ込んだ冨岡と、知らぬ間に息のあがった私。
唇が触れる数瞬前、私が彼を突き飛ばしたのだ。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時