黒春 (ページ26) - 小説/夢小説

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黒春探偵社の混乱ページ26

それといって特別なことがあったわけではない。
強いていうならば、風が吹いていたからかもしれない。
｢あぁ、ならその仕事私が行くよ。丁度暇だったし｣
武装探偵社のソファーでいつものごとくだらだらしていた太宰が、急に、唐突に、何の前触れもなく、自ら仕事を引き受けようと言った。
他の社員は驚きを隠せなかった。
つい三分前まで、ナマケモノの方がまだ働いているのではと思わせる怠けっぷりをしていたのだ。なのにどうした。何故太宰がやる気を出している。何故ソファーから立ち上がり、いつものコートをを羽織る。
｢この場所にある建物の視察でしょ？地図かして？……ふーん、ヨコハマ租界か。うん、これぐらい行ってくるよ。日が暮れるまでには帰るから、…あ、銃持ってく方がいいね。武器庫………｣
何故、こう、ちゃくちゃくと手際よく準備をしている。これでは本当に仕事に行こうとしているみたいではないか。
｢っと、これでよし、行ってくるよ｣
え、本当にいくのか？仕事をしに！？嘘だ、あの太宰がまともに仕事をするなど…しかもこんな誰でもできるような仕事を…
と、誰もが口をポカンと開けて思っていた。
｢……まて太宰｣
ただ一人……乱歩を除いて。
よっ、と言ってソファーから体を起こし、いつもの猫目で、ねるねるねるねるを練ったまま
｢お財布持ってけ、三千円あれば足りるだろう。あと、あまり長居はするな。一時には切り上げるんだ。そして寄り道でもしながらゆっくり……ﾑｸﾞﾑｸﾞほぉほぉっふぇほい｣
と、ねるねるねるねるを食しながら言った。『ほぉほぉっふぇほい』が、『戻ってこい』と正しく解釈できものはいたが、この不思議な発言の本意を理解したものは一人も居なかった。太宰すら、そのときはわかっていなかった。あぁはい、と言いつつも首を捻りながら、お財布ポケットに入れて
｢行ってきます｣
と、探偵社のドアを閉めて出ていった。
いつもの太宰らしさは微塵もなかった。

そのあと、国木田は｢熱があるかもしれない｣と退社し、敦は｢今回はどんな自◯法だろう｣と完全自◯本を恐る恐るめくり、ナオミは｢精神操作の異能にとりつかれたのかしら｣と言って谷崎兄にしがみつくなど、社内は一時混乱した。