【中島敦】 「君はかわいい僕の弟。」

第八話 ページ10

「は〜〜〜……。今日も疲れた〜……」



あのお兄さんと出会ってから早一週間。特にこれといって何もなく僕は探偵社員として普通の毎日を過ごしていた。兎に角、最近入ってきた案件がこれまた大変で大変で。あのお兄さんのことは、すでに僕の記憶の隅に追いやられていた。


そんなある日の帰り道のことだ。



(そうだ、今日は鏡花ちゃんは与謝野先生達とお泊りだっけ。ちょっと寄り道して帰ろうかな)


僕は、ふらふらと誘われるようにネオンが揺れる横浜の街へと足を進ませた。



(……綺麗だ)


都会の光が色とりどりに輝いて、僕の目にはとても美しく見えた。
最近 仕事でミスが続いて、国木田さんに怒られてばっかりだった。疲れたなぁ、休みたい。




「……ねえ、大丈夫？」



僕がふらふらと歩いていたからか、街中の誰かが僕の肩を支えてくれたようだ。


「すみません、大丈夫です」

顔を上げ、支えてくれた人の顔を見た。


「……本当に？」


───────あの時のお兄さんだった。



「あっ……！」


「また会えたね、敦くん」



お兄さんは、あの優しげな笑顔でにこりと微笑んだ。

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