第一場 ページ32
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…遠い日の、幻を見た。
初夏の風に吹かれながら
綿毛が舞う中で
私の目の前で たんぽぽのように、健気に
その大きな目を細めて 笑っていた
そんな貴方の髪を
私は
…何よりも大切な宝物のように、撫でていた。
「楼主様、チェ様がお見えになっています」
「…また？」
ある日の昼下がり。
いつものように開店準備をしながら、不意に懐かしい思い出が心に蘇ったと思えば 若い衆が私を呼びつけた。
…肩が重くなる。
溜め息を一つこぼしたあとは、口元に朗らかな笑みを浮かべて 門へと急ぐ。
これも、何かの罰かしらね。
清らかな彼の姿を思い浮かべて、愛おしくなるなんて
身勝手にも程があるから。
「チェ様、ご機嫌よろしゅうございます」
「Aちゃん！や〜、久し振りだねぇ」
今日も今日とて脂ぎった顔だ。
最後に顔を合わせたのはテイルと伺った時。
…あの時の雑な扱いを根に持ってるだろうか。
否、彼ならきっとそう。
私の予想は的中し、
チェさんは卑しい笑みを浮かべて
何やら私の全身を舐め回すように見てきた。
「この前は最後まで話が出来なかったからね、続きをしに来たんだよ」
「と、おっしゃいますと…」
「温泉旅行の話だよ〜！あのクソガキが話に割り込んできて、結局最後まで話せなかったじゃないか」
「…恐縮ですが、わたくしは貴方様と遠くまでご一緒するつもりは御座いませんのよ」
「またまた〜！これも付き合いのうちだよ、あんまり素っ気ない態度を取られちゃあ、今後の仕事の関係にも支障が出てくると思うんだけどなぁ？」
「それは、」
「最近はどうも俺のことを突っぱねるようになったよなぁ。昔はもっと愛想があって可愛かったぞ、え？」
そう言って、彼は私の肩を掴む。
…痛い。
払い除けたい衝動に駆られる。
と言うか、早く追い返したいんだけど。
一番の取引先を失うのは痛いが、このままじゃ私個人の身に危険が迫るような気がしてならない。
チェさんは更に、私を睨み上げてくる。
「…あんまりナメた口聞いて俺を怒らせるなよ？」
「…チェ様、ここは人前ですわ」
「なんの、出かけるって言ったって たった一日じゃないか。何を渋るんだよ… なぁ？」
「痛っ… お離しください、」
彼の鼻息が荒くなる。
目つきが爛々と、ぎらぎらと強くなる。
…気色が悪い。
もうこの太い手を叩いてしまおうか。
私は目を閉じ、手に力を込めた。
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rurueru - このお話は本当に書籍化して欲しいぐらいお気に入りです。これからも長く続いてほしいですがこの願いははたまた、、、 (2021年2月24日 22時) (
レス) id: cf29b96430 (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - もう5年くらいいろんな方の作品を読んでいますがTOP3に入るくらい好きな作品です。終わりが近づいていてとても惜しいです、、 (2021年2月20日 23時) (レス) id: dce001e485 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：如月
| 作成日時：2021年2月19日 22時
